「相手がたまたま女性だっただけ」。LGBTQ当事者の浜松幸(コウ)さんを好きになった妻の美樹さん(32歳)たちは、事実婚を選択しました。強い絆で結ばれたふたりの様子は、取材中も溢れるほど伝わってきました(全2回中の2回)。

 

現在の姿(左)と女の子らしくあろうとした高校生のときの幸さん(右)

パートナーの性別に関係なくひかれたふたり

── おふたりの様子から、とても仲がいいことが伝わってきます。出会いのきっかけを教えてください。

 

幸さん:ミュージカル活動を行うNPO法人で知り合いました。10日間の海外ツアーがあり、そのときに親しくなっていきました。

 

美樹さん:もともと私は、同じ人とずっと一緒にいるのが苦手なタイプでした。

 

でも、幸とはふたりで過ごすのが居心地よくて、そこに惹かれたのが大きかったです。自然と恋愛感情が芽生え、交際するようになりました。

 

── 美樹さんご自身には、幸さんがLGBTQである不安や迷いはありませんでしたか?

 

美樹さん:それまでは男性としかおつき合いしたことがありませんでしたが、幸がLGBTQだから迷う、みたいなことはありませんでした。

 

私は女子高出身でミュージカル部に所属していて、宝塚歌劇団みたいに男役も女役も演じていたんです。

 

だから、かっこいい先輩に憧れたこともあります。それにもともとマイノリティと言われる人に対し、ネガティブな気持ちはまったくありませんでした。

 

友人を集めて幸さんから美樹さんに “サプライズプロポーズ”したときの様子

幸さん:彼女の叔母さんはダウン症で、身近にマイノリティな存在がいたことも大きいと思います。

 

美樹ちゃんは価値観がいい意味で一般的ではないというか、偏見や固定観念がまるでないんですよね。本人に自覚はないと思いますが、すごく器が大きい人です。

 

昔は、僕自身が「恋人には“男”として好きになってもらいたい」というこだわりがありました。

 

でも美樹ちゃんといると「誰よりも自分が性別に縛られていたかもしれない」と思えるようになりました。

入籍の手続きよりも夫婦として大事なものとは

── 幸さんは美樹さんに“サプライズプロポーズ”をされたそうですね。

 

幸さん:2016年の美樹ちゃんの誕生日にサプライズパーティーをしたんです。

 

パーティーの最後には、たくさんの友だちが見守るなか、ひざまずいて指輪を渡し、プロポーズしました。

 

美樹さん:すごく素敵な時間でした。大好きな人たちが集まってくれて、しかも内緒で準備してくれたのもびっくりしました。幸せすぎて、ずっと泣きっぱなしでした。

 

── 幸さんと美樹さんがご結婚を決意されたのはなぜでしょうか?

 

幸さん:僕は戸籍上では女性なので、入籍はできないんです。だから、これまでは「結婚できない、子どもがつくれない」のがコンプレックスでした。

 

でも、美樹ちゃんが「結婚なんて紙きれ1枚の問題だよ」と言ってくれたのが大きかったです。僕自身も固定観念にとらわれていたと気づかされました。

 

美樹さん:私はもともと結婚願望がないんです。でも、お互いを理解し合えるパートナーが欲しくて。幸とだったら、理想の関係を築けると思いました。

 

── 現在は事実婚だそうですが、今後、同性婚が認められたら入籍しますか?

 

幸さん:いまのところ考えてはいません。

 

戸籍は女性のままですが、自分のことを男性だと思っています。だから、「同性同士の結婚」が、自分ごととしてピンと来ない部分があって…。今後、また新しい結婚の形が生まれてきたら、そのときには、考えるかもしれません。

 

ふだんの生活のなかで、入籍しているかどうかを意識することはあまりない気がします。まわりの友人や仕事仲間は僕たちを夫婦として受け入れてくれるので、それで十分です。

 

もともとの名前だった「美幸」を「幸」に改名しているのですが、手続きの大変さがわかるので、美樹ちゃんにその負担を負わせるのは申し訳ないとも思っています。

 

美樹さん:以前、ふたりともコロナに感染し、症状の軽かった私が病院などの手続きをしました。そのとき、公的機関でふたりの関係を聞かれたことがあります。

 

スムーズに話を進めるために「同居人です」と答えました。事実婚で面倒だったのはそれくらいです。

 

今後、お墓や介護問題が出てきたらどうするべきか、本格的に考えるかもしれません。でも、将来のことで悩むよりは、いまの幸せを大切にしたいです。

世界一の理解者と「ずっと一緒」にいられるのは最高でしかない

── 幸さんと美樹さんは同じ会社で働いていたこともあるそうですね。1日のほとんどをともに過ごすと相手のアラが見えてくることもありがちです。円満な関係を続ける秘けつはありますか?

 

幸さん:周囲から「ずっと一緒にいて、よく飽きないね」と言われたら、「世界で一番の理解者と、1日中同じ空間で過ごせるって最高じゃない?」と答えていました。

 

ただ、ふたりで決めた「家でケンカしても絶対に会社には持ち込まない」というルールだけは守っていました。

 

美樹さん:プライベートでは、それぞれ自分のコミュニティがあって、お互いに尊重しているのが大きいかもしれません。

 

幸さん:万が一、離れることがあっても、個々で生活できるようにしています。ふだんはソロ活動をしていて、ユニットを組んでいる感じです。

 

もちろん、子どもがいないからひとりの時間を尊重できている部分はあります。

 

以前はすごく子どもが欲しかったんです。でも、美樹ちゃんと結婚して満たされたのか、その気持ちがなくなりました。

 

美樹さん:私は結婚願望がなく、子どもを産み育てたい気持ちもありませんでした。先のことはわからないですが、いまはパートナーがいて、ひとりの時間も尊重できる生活に満足しています。

 

── 幸さん、美樹さんにとってお互いはどんな存在でしょう?

 

美樹さん:以前はネガティブで泣いてばかりな性格でした。それがパワフルな幸に出会ってから、すごく前向きになりました。かけがえのない家族です。

 

幸さん:僕自身の固定観念を変えてくれて世界を広げてくれた、最高の理解者です。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/浜松幸