「10年の節目に、その先の芸能界でのキャリアを思い描けなくなった」と話すのは、AKB48・JKT48でアイドル活動をしていた近野莉菜さん。現在は、芸能界を引退したときの夢を叶え、女性アパレルブランドのプレスに。アイドルを卒業し、芸能界を引退した理由や、アパレル業界に飛び込んだ経緯など、お話を聞きました(全4回中の3回)。

 

元AKB48の近野莉菜さん
14歳からアイドルとして活動し、10年の節目にキャリアチェンジした近野さん

AKB48グループに10年「もう24歳」の決断

── AKB48から2014年にJKT48に移籍し、言葉の壁も乗り越えての活動は大変だったと思います。努力の甲斐あって現地での人気も高まり、2017年4月に結果発表された「JKT48 17thシングル選抜総選挙」では6位を獲得。上位7名を指す「神7」入りを果たしました。

 

近野さん:JKT48での総選挙は3回経験し、どんどん順位が上がっていったのは、すごく嬉しかったですね。

 

── しかし、最高位を獲得した年の12月に卒業を発表。翌年3月の卒業公演でAKB48グループを卒業し、11月末に事務所との契約を終了して芸能界を引退しました。「なぜ、このタイミング?」と感じた人も多いと思います。

 

近野さん:14歳でAKB48オーディションに合格して10年、アイドルとしては「もう24歳」です。ジャカルタでの活動は充実していましたが、「アイドルはジャカルタでやりきる」という気持ちがありました。

 

「せっかく『神7』入りしたのに、そんなに早く卒業?」と思われるかもしれませんが、私のなかでは6位になれた総選挙は10年の節目、「最後の総選挙」と決めていたんです。

 

元AKB48の近野莉菜さん
私服姿のInstagram投稿には「かわいい!」のコメントがたくさん

── 小さいころから歌手を目指し、AKB48のオーディションも最初は「通過点のひとつ」と考えていましたよね。アイドルからアーティストへ、改めて歌手を目指す気持ちにはなりませんでした?

 

近野さん:アイドルとして歌い、踊るなかで、その夢は叶ったし、満たされていました。

 

日本にいるころ、お芝居の道も考えて舞台のお仕事にも挑戦しました。ジャカルタでの経験を活かした芸能活動も考えましたが、幅が狭く、自分独自の強みが見い出せなくて。

 

ずっと芸能界で頑張ってきましたが、その先のキャリアというか、将来像が思い描けなかったんです。目指すべき目標がないと感じるうち、まったく別の道に進むことを自然と考えるようになりました。

アパレルブランドのプレスに憧れて

── なぜアパレル業界に?

 

近野さん:ファッションが好きで、芸能界を離れて一般の会社で働くことを考えたとき、「アパレルブランドのプレスになりたい」と憧れを持ちました。

 

事務所の元先輩だった方に、今の会社でプレスとして活躍している三谷麗子さんがいらしたので、当初は事務所の社長経由で三谷さんを紹介してもらう予定でした。

 

── 予定というのは?

 

近野さん:たまたま友達のSNSで、関係者限定の展示会情報が上がっているのを見て「この展示会へ、三谷さんに会いに行こう!」と思い立ってしまって(笑)。AKB48の先輩である板野友美さんも同じブランドが好きで、以前、展示会に行く話をしていたので連絡したら「じゃあ今日、一緒に行こう」と。

 

展示会は3週間の会期で、その日に三谷さんがいない可能性もありました。でも偶然、アルバイト採用も担当している営業の方と一緒に会場にいらしたので、「この会社で、プレスを目指して働きたい」とお話しできたんです。

 

元AKB48の近野莉菜さん

── その展開になるあたり、近野さんが「持ってる」感じがします。

 

近野さん:たしかにラッキーでした。いきなりの相談でしたが、三谷さんも営業担当の方も話を聞いてくれて、「気持ちが決まったら、連絡して」と。

 

私の気持ちはすでに決まっていたので、事務所の社長に状況を説明して三谷さんの連絡先を教えてもらい、その日の夜にはアルバイトの面接を申し込みました。

 

── 行動が早すぎます(笑)。その面接を通って、アルバイトから新たなキャリアをスタートしたわけですね。

 

近野さん:芸能界の仕事以外したことがなかったので、まずはアルバイトのショップスタッフからはじめようと。

 

アルバイトでの採用が決まった段階で事務所に報告し、契約終了の手続きをしてもらい、芸能界を引退しました。

転機も「大きな決断だとは思っていない」

── キャリアについて冷静に判断する一面もありますが、ジャカルタ行きを即決したり、事務所の社長からの紹介予定を待ちきれなかったり、思いきった行動をしますね(笑)。

 

近野さん:自分では先々のことを安定志向で考えるなど、冷静なつもりなんですけど…。言われてみれば、たしかにそうですね(笑)。

 

── 真っすぐ行動に移せるとことも素晴らしいですが、14歳から続けていた仕事を「辞める」と決められる決断力も、なかなかすごいと思います。

 

近野さん:「こうしたい!」と決めたら、そのことしか考えられなくなりますし、とにかくすぐに行動に移したくなります。

 

真剣に考えて決めていますが、JKT48への移籍も、芸能界を引退してアパレル業界へ転職するのも、その瞬間は「大きな決断をしている」とは思っていません。

 

もちろんジャカルタでの経験は貴重でしたし、そのまま辞めてしまうのは「もったいない」という気持ちもありました。でも24歳って、グループでは最年長になる年齢で、10年働いているとはいっても、一般的な社会人の経験はない。

 

待ちきれずに行動しちゃいましたが(笑)、「違う道に進むなら、このタイミングだ」と、冷静に判断した結果です。

 

元AKB48の近野莉菜さん

── ジャカルタ行きは大反対されたそうですが、芸能界を引退することは、ご両親に反対されませんでした?

 

近野さん:20歳になるまでは、口うるさく注意されることもありましたが、20歳を過ぎてからは私の考えを尊重してくれて、あれこれ言わなくなりました。

 

親から見たら「破天荒な娘」だと思いますけど(笑)、両親はどんな状況でも私をずっと見守り、応援してくれる、大切な存在です。

 

PROFILE   近野莉菜さん

1993年東京都出身。2007年「AKB48 第二回研究生(5期生)オーディション」に合格し、AKB48、JKT48で活躍。2018年にAKB48グループを卒業し、芸能界を引退。現在はアパレルブランドのプレスとして働いている。

 

取材・文・撮影/鍬田美穂 画像提供/近野莉菜