固執する気持ち捨て芸能界に復帰
── その後、ふたたび芸能界に戻られました。なにがきっかけだったのでしょうか?
高橋さん:音楽のすばらしさをあらためて実感し、自分のなかで「もっと歌いたい」という気持ちが大きくなっていました。引退していても「どうしてもこれに出てほしいのだけど」と声をかけてくださる方もいて、それってすごくありがたいなと思ったんです。
それなのに、芸能界は嫌だとか、変に固執している自分が、なんだかちっぽけに思えてきて。たとえ一人でも「歌ってほしい」と言ってくださる方がいるなら、それがどこであろうと行って歌わせていただきたいと思うようになりました。
そこから少しずつ介護の仕事を減らして、芸能界に復帰。その後、再放送や動画配信などで、エヴァンゲリオンが再び盛り上がり、歌も聞いてもらえるようになって、イベントの仕事などが増えていきました。
エヴァンゲリオンにかけるプロ意識
── 今でも毎日、エヴァンゲリオンの歌を練習されているとか。歌うときには、どんなことを心がけているのでしょう?
高橋さん:意識しているのは、とにかく当時の歌い方に忠実であること。
アニソンはみんなのもの。特に、エヴァンゲリオンは、哲学的な要素が強く、本当に奥深くて、素晴らしい作品です。だからこそ、ファンの方それぞれに思い入れがある。それなのに、私の歌い方が年齢とともに変わっていたら、その思い出が崩れてしまいますよね。
ですから、今でも昔の音源を聴いて耳に刷り込み、当時の歌い方に近づけるように努力します。だいたい2時間くらいは練習しますね。
高橋さん:たとえば皆さん、27年前のお洋服って着られますか? 難しいと思うんです。27年前の歌を当時と同じ声で歌うのは、それくらい大変なことなんですね。
自分のカラーや表現をいっさい出さず、クオリティー高いものを維持し続けるというのは、より職人的な作業になりますが、私はそちらの方が向いているみたいです。
のどを守るため、日々ルーティンも欠かせません。寝るときには、乾燥しないようにストールを巻いてのどを保護。口には睡眠時使用可能なテープを貼り、マスクをしています。朝起きたらまず、のどの調子を確認するのですが、毎回緊張します。
寝具も、肌に触れるものは、なるべく刺激のないものにし、枕はシルクのカバーを使っています。とにかく乾燥が厳禁なので、寝るときには暖房は使わず、遠赤外線のパッドを布団の下に敷いて寝ています。
── さすがに徹底されていますね。
高橋さん:体が楽器なので、自己管理は必須ですね。
今、ハマっているのが、「アイアンガーヨガ」というヨガ。道具を使って、正しい姿勢を取るのですが、歳を経てもできるのが魅力です。
体だけでなく、心も充実した状態でいられるように、丁寧な暮らしを心がけています。誰かのために心を込めてご飯を作ったり、相手を思いながら手紙をしたためたり、ゆっくりと白湯を飲んで自分を労わったり。日々、当たり前のことを心込めて丁寧におこなうことを大切にしています。
PROFILE 高橋洋子さん
1966年、東京都生まれ。1991年に「P.S. I miss you」で、ソロ歌手としてメジャーデビューし、レコード大賞新人賞、有線大賞新人賞を受賞。『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌「残酷な天使のテーゼ」、97年に公開されたアニメ映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』主題歌の「魂のルフラン」は、現在に渡りロングヒット中。
取材・文/西尾英子 画像提供/高橋洋子、(株)ハートライフケア デイサービス ゆらり