介護施設で「音楽の力」に感動
── これまでと違った形で歌と向き合う経験をされたわけですが、自分のなかで音楽に対する気持ちに変化はありましたか?
高橋さん:介護施設で5年間働きましたが、音楽が持つ力にあらためて気づかされました。
歌と向き合い続けるなかで、「音楽療法」に興味を持ち、音大の聴講生として学び、実際に施設でも取り入れました。
認知症になり、「自分にはもうできないんだよ…」と寂しそうに話すお年寄りの方々も、童謡や唱歌が流れだすと、みんな一緒になって歌いだすんです。「皆さん素晴らしいですね!」とお声がけすると、沈んだ顔をしていた方もパッと明るい笑顔になる。「自分も歌えた」という自信が自己肯定感につながるんですね。
ああ、音楽というものは、こんなにも人の心に彩りを与えてくれるんだな、音楽の力ってすごいなあと感動しましたね。
── 認知症になっても、その人にとっての思い出の歌は、しっかり覚えていたりしますよね。
高橋さん:私にとって介護施設での歌の時間は、特別な経験でした。
みなさん集中力がどんどんなくなっていくので、「いかに心を掴めるか」が問われます。いわば私にとって「究極のライブ」なんですね。
どうすればこの音楽の時間をより楽しんでもらえるだろうと考え、身振り手振りを交えたり、緩急をつけたりと、いろんな工夫をしました。ご利用者さまの心を掴むという点では、この経験が歌手としての私を鍛えてくれたと思っています。