大ヒットアニメシリーズ「新世紀エヴァンゲリオン」の主題歌「残酷な天使のテーゼ」を歌う高橋洋子さん。彼女には、芸能界を離れ介護ヘルパーをしていた時期がありました。高齢の入居者が、童謡や唱歌で表情が明るくなる場面に接し、あらためて「音楽の力」に気づかされたと話します。彼女が、歌い続ける道を選んだ理由とは。(全4回中の2回)

芸能界を引退し介護ヘルパーに

── 2000年に芸能界を引退し、5年間、介護ヘルパーとして働いていらしたとか。なぜ介護の世界に?

 

高橋さん:当時「残酷な天使のテーゼ」を歌ってはいたけれど、まだ人気に火はついていなくて。売れていない歌手なのに、事務所と専属契約しているから、お給料をいただいてスタッフの皆さんには盛り立ててもらえる。

 

「このままでは人としても歌手としてもダメになる。自分の身の丈に合った生活をしよう」と決意して芸能界を離れたんです。

 

でも、資格もなければ、就職経験もない。しかも、小さな子どもを抱えた自分に何ができるのかと考えたときに、選択肢はほとんどありませんでした。

 

当時、夫がいたのですが、病気で働ける状態ではなかったので、私が大黒柱として家族を食べさせていなくてはいけない。定職に就く方法を探していた矢先、自治体の広報誌でヘルパー資格取得を半額助成してくれる制度を発見し、「これだ!」と思ったんです。

 

とはいえ、介護職は薄給ですから、早朝はチェーン店のコーヒーショップでバイトをして、昼間はデイサービスの非常勤で働くといった形で、いくつか仕事を掛け持ちしていました。

 

高橋洋子さん
生後3か月の娘を抱き、母親としてはつらつとした表情の高橋さん

── 当時、音楽活動はやめていたのですか?

 

高橋さん:音楽から離れたわけではありませんでした。3人の子どもがいる親友と「音楽探検隊」をつくって子どもたちと音楽を楽しむ活動をしたり、幼稚園や銭湯などで手づくりのミニコンサートを開いたりと、歌うこと自体は続けていたんです。

 

ただそれは、収入と呼べるほどのものではなく、ライフワークのような感じだったので、経済的には厳しかったですね。

 

── あの…下世話ですみません。エヴァンゲリオンの曲が、あれほどヒットして、カラオケでも歌われているので、勝手ながら「ひだりうちわの印税生活」かと。

 

高橋さん:いえいえ、誤解のないように声を大にして言いたいのですが(笑)、カラオケは歌が抜けているので、歌唱印税はゼロ。どんなにカラオケで歌われても、私には1円も入りません。私たちの時代の歌手は、そういう契約が多かったと思いますね。