子育て中、自宅に“静かな環境”を求めるのはぜいたくなんです

── そうした考えに至るには、なにかきっかけがあったのですか?

 

池田さん:もともと四畳半の狭い家からスタートし、その後、2LDKに引っ越して自分の部屋ができました。

 

「よし、これで集中できるぞ」と思ったのもつかの間、子どもたちはお構いなしにガンガン部屋に入ってきて、こちらの都合なんて考えず、大騒ぎをする。

 

「なるほど。結局、子育て家庭に“静かな環境”を求めるなんてぜいたくなんだな」と悟りました。それならこの環境で慣れるしかない!と思ったわけです。

 

── 環境を変えるのでなく、自分を変えると。

 

池田さん:もちろん喫茶店に行って仕事をすれば、すごく集中できるでしょうし、執筆だってはかどることはわかっています。でも結局、いまの環境は、「家族と一緒にいたい」という自分の気持ちに従って、みずから選んだ道。だから、覚悟ができていたのでしょうね。

 

もしも、「執筆の仕事を増やしたい」という欲だけで始めていたら、ここまで順応できていなかったかもしれません。

 

── 自分が選んで決めたという納得感があるから、逆境も前向きに受け入れてこられたわけですね。

 

池田さん:子どもが幼児のときはさすがに難しい時期もありました。グズる子どもをあやしながら、夜中の街を散歩して、寝かしつけてから徹夜で書き上げたことも。

 

それぞれの作品ごとに娘たちとの思い出が詰まっていて、「そういえばあのとき、あんなことがあったなあ」と懐かしく感じます。

 

── 家族と過ごす時間を最優先にして働き方を変えたことについて、奥さんの反応はいかがでしたか?

 

池田さん:コロナ禍での育児の不安は、おそらく多くのママたちが経験されてきたと思います。

 

妻もコロナ禍で子どもたちを守らなくてはという思いが強かったようで、不眠気味になって、かなりしんどそうでした。

 

家で過ごす時間を増やそうと考えたのは、妻にとって安心できる環境をつくってあげられなかった反省の意味もあります。

 

私は口下手なので、失敗もいろいろあるけれど、それを責めることなくフォローしてくれる妻にはいつも感謝しています。

 

PROFILE  池田鉄洋(池田テツヒロ)さん

1970年生まれ。東京都出身。俳優、声優、脚本家、演出家と、幅広く活躍。テレビドラマ『医龍~Team Medical Dragon~』シリーズやバラエティ番組『サラリーマンNEO』をはじめ、個性派俳優として多数の作品に出演。ZIP!朝ドラマ『パパとなっちゃんのお弁当』の脚本やオフ・ブロードウェイ・ミュージカル『悪魔の毒毒モンスター REBORN』の演出を手掛ける。最新作として2023年度前期連続テレビ小説『らんまん』に及川福治役で出演。

 

取材・文/西尾英子 撮影/伊藤智美 画像提供/ホリプロ