子ども目線でしか、考えられなかった

誰かに打ち明けることができたら、と語る川嶋さん

── 育てのお母さまは、川嶋さんが16歳のときに亡くなったそうですが、お母さまに対して、36歳になった今は、どんな感情がありますか?

 

川嶋さん:今は、母という人間をいちばん客観的に見られている。そんな時期かなという気はしています。

 

母が亡くなって長い間、「お母さん、お母さん」って、母と一緒に過ごした日々が、ずっと脳裏に焼きついていたんです。

 

でも、今は過去を愛おしむことも、もちろんしていますけど。それとは別に、母親ってどういう人間で、どういう発想をする人だったんだろうとか。どうして私を引き取ったのか。どんな気持ちで、歌をずっと習わせてくれてたんだろうって、少し引いて考えられるようになりましたね。

 

── 時間が経過して、気持ちも変化されていったような。

 

川嶋さん:多分、変わっていったんでしょうね。12歳で養子縁組の事実を知ったときは、完全に子どもの目線でしか物事を見ていなかったんですよ。私が事実を知って打ちのめされている姿を見て、母はどんな感情だったんだろう。当時はそこまで想像できなかったです。ほんと、お母さんごめんねって、今は思いますね。

 

── もし、この先川嶋さんに養子縁組のご縁があったとしたら、子どもを引き取ってみたいと思いますか?

 

川嶋さん:全然、思いますね。血の繋がりは関係ない、とも思います。これは、母が亡くなってからちょっと芽生え始めた感情ですけど…。

 

親子って、血がつくるのではなくて、時間がつくると思うんですよね。たくさんの時間を一緒に過ごして、お互いを思いやって、繋がりが強くなっていく。もちろんときにはケンカしたり、ぶつかり合ったり、思いが伝わらない日もありますよね。それでも、やっぱり多くの時間を共有しながら、血とか、環境とか乗り越えて、育てられる愛があるんじゃないかなって。それは、育ての母からいちばん学びました。

 

私は、今は結婚や出産をしていないです。子どもがいてもいなくても幸せだと思いますが、もし産みたくても産めない状況になったとき。誰かと出会って、それこそ私と母が出会えたように、命のバトンを引き継いでいく選択肢もあるなと思っています。

 

PROFILE  川嶋あいさん

1986年生まれ。福岡県出身。シンガーソングライター。2003年にI WiSHのaiとして人気番組の主題歌「明日への扉」でデビュー。2006年からは本格的にソロ活動をスタート。代表曲としては、「My Love」「compass」「大丈夫だよ」「とびら」などがある。

 

取材・文/松永怜 撮影/阿部章仁