読み聞かせに正解はない
── 読み聞かせに苦手意識がある方もいます。
福本さん:
その話はよく聞きますし、読み聞かせの上手な方の音声を聞かせる方もいますね。どうしても忙しいときもあるかと思いますが、上手に読まなきゃならないというプレッシャーを抱くことは決してありません。
子どもは、上手に読んでほしいわけではなく、自分が大好きな人の声で読んでもらうことが嬉しいんです。
『おおきなかぶ』という絵本に、「うん、とこ、しょ(ひと呼吸おく)、どっ、こい、しょ(ひと呼吸おく)。まだまだ、かぶは抜けません」というフレーズが出てきますね。
大学の授業で、ある女子学生に読んでもらったのですが、授業が終わった後で、他の男子学生が私のところに来て、「今日の授業で聞いたのは、僕の知っているおおきなかぶではなかった」というんです。
話を聞くと、その子はいつもおじいちゃんが『おおきなかぶ』の絵本を読んでくれていて、「うっとこしょ〜どこいっしょ〜」と独特のリズムをつけて読んでいたというんです。その声が今でも耳に残っているとのことでした。私はその話に感動してしまって。
もしかしたらおじいちゃんは、絵本を読み慣れていないのに、孫に頼まれたから、何とか楽しませようと一生懸命に読んであげていたのかもしれませんね。あぐらをかいて、その上に座らせていたかも。そんなおじいちゃんの愛情が、絵本と共にずっと子どもの心に残っているってすごく素敵なことだと思うんです。
読み方に正解はないので、上手に読むとか、上手い人の真似をする必要はないんだなと思いました。小さい頃に出会う絵本というのは、読んでくれた人の声と密接に結びついているからこそ大切なのだと思います。
── ひと口に絵本といっても、たくさんの種類があって迷ってしまいます。
福本さん:
たくさんの種類よりも、お子さんの気に入っているものを繰り返し読むのがいいと思います。お子さんが「もう一回読んで」と持ってくるものは目安になりますね。子どもたちは何度も読むことでお話を自分のものにしていきます。
絵本には対象年齢がありますので、図書館でたくさん借りてきたけれど、子どもが飽きちゃったとか、退屈そうにしているのであればその本はまだ早い可能性もあります。お子さんそれぞれに好みもあるかと思います。
図書館は無料ですので、子どもが気に入って何度も読みたがるものを実際に買ってあげるのもいいですね。
── 絵本と出会うことで子どもたちにはどんな影響がありますか。
福本さん:
子どもたちはなんでも吸収しますので、きちんとした日本語を知るという意味でも絵本は大切です。それに、少し難しい言葉が出てきたとしても、文章だけの本とは違って、絵本には必ず絵がありますから、このことだということがわかります。
知らない言葉や言い回しを知るきっかけにもなりますし、聞いているうちにだんだん自分も使えるようにもなっていきます。
絵本は想像の世界を広げてくれますし、絵本を読むことで親と子が同じ体験をできるので、実際にどこかに出かけた際にも、「これはあの本に出てきたね」というような共通の体験をするためのヒントにもなると思います。
その時間は大事にして欲しいですし、寝る前の一冊の習慣が、お子さんとのかけがえのない宝物になると思います。
PROFILE 福本友美子さん
慶應義塾大学卒業後、調布市立図書館司書、立教大学兼任講師、国際子ども図書館非常勤調査員などを経て、現在は子どもの本の翻訳、研究、講演などをする。訳書は『としょかんライオン』(岩崎書店)、『ないしょのおともだち』(ほるぷ出版)など240点以上。4人の孫の誕生により読み聞かせの楽しみを再び味わっている。
取材・文/内橋明日香 写真提供/福本友美子、岩波書店