翻訳者が語る「おさるのジョージ」の魅力

── 福本さんから見た「おさるのジョージ」は、どんなキャラクターですか。

 

福本さん:
読者の方から、「うちの子、ジョージそっくりなんです」と言われることも多いのですが、ジョージは幼い子どもそのものです。見るもの聞くもの、なんにでも興味津々で、きいろいぼうしのおじさんから「ここで、おりこうにしていなさい」と言われても、ちっともじっとしていなくて、すぐにどこかに飛んでいってしまいます。

 

つい羽目をはずしてしまって、失敗してしょぼんとしてしまうのも子どもそっくり。子どもたちは、その姿を自分に投影して、まるでジョージになったつもりでお話を楽しむのではないかと思います。ジョージが何歳という設定はないので、読者のお子さんが自分と同じような存在として受け止めることができます。

 

──「おさるのジョージ」と一緒に暮らす「きいろいぼうしのおじさん」はどんな存在ですか。

 

福本さん:
お父さんでもあり、お母さんでもあるような存在でしょうね。食事を作ってくれたり、絵本を読んでくれたり、どこかに連れて行ってもくれます。

 

どうしてこのおじさんがいつも黄色の服と帽子姿なのかというと、実はこれ、ジャングル探検の格好なんです。アフリカのジャングルで子猿と出会い、最初は動物園に入れるけれど、動物園から逃げ出してしまったので、おじさんが引き取って家族として暮らすことになったという設定です。だからいつまでもこの格好のままで、名前も「きいろいぼうしのおじさん」です。

 

おじさんは物語の最初に「ここでおとなしくしているんだぞ」とジョージに言ってから、必ずいなくなります。そして案の定、困ったことが起きて、一件落着した頃に迎えに来るんです。これはだいたいどのお話でも同じパターンで、おじさんはお話の起承転結に欠かせない存在だと言えます。

 

「おさるのジョージ」と一緒に暮らす「きいろいぼうしのおじさん」 『おさるのジョージ やきゅうじょうへいく』(岩波書店)

── 子育てをしている身としては、ジョージがどんないたずらをしても叱らないその姿勢は、尊敬すべきことがたくさんあります。

 

福本さん:
そういう見方もありますね。おじさんは、決してジョージを叱りません。叱ったり、怒ったりする人は、別の登場人物です。大騒ぎを起こしたところで、「困った子猿だ!」と言われるのですが、そのあいだに、きいろいぼうしのおじさんはいません。

 

どんなに困ったことが起きても、必ず最後はおじさんが迎えにきてくれるから、ジョージも羽目をはずすことができるし、読者の方も安心して読んでいくことができる。おじさんはそういう重要な役回りを持った人物だと思います。

 

でも、最初にジョージを叱った人たちも、ジョージが何かをしたことで結局はいい効果が生まれて、「よかったね、ありがとう」となります。そしてうまく事態がおさまった後に、おじさんがやってきます。

 

物語の最後は必ずいい方向に転んで、「こんな失敗してダメじゃないか」ではなく、必ずジョージを褒めて終わるというのも、子どもたちには嬉しいことですよね。

 

── 福本さんは「おさるのジョージ」が世界中の子どもたちから愛される理由はなんだと思いますか。

 

福本さん:
私が翻訳を担当している新しいシリーズは、“ジョージの初めて物語”だと思っているんですけど、水族館や歯医者さん、チョコレート工場など、今まで行ったことがない場所に行くストーリーです。それを読者の子どもたちも一緒に体験できるところが魅力です。

 

かわいいペンギンのイラストが描かれた『おさるのジョージ すいぞくかんへいく』(岩波書店)

本を読んだ後に、お子さんと実際に水族館などに行く機会があったら、「このお魚、ジョージも見ていたね」と親子が一緒に楽しむことができます。

 

英語では、ジョージは“Curious George”ですが、この“curious”というのは「なんでも興味を持って、知りたがる」という意味。それは読者の子どもたちが持っている気持ちと一緒だと思います。

 

特に日本のお子さんはお利口さんなので、これはしてはいけないよと言われたら守ることが多いかと思うのですが、自分では絶対できないような大胆なこともジョージはしてくれます。ドキドキ、ハラハラしながらも、どこかスカッとするのも人気の理由のように思います。

 

PROFILE 福本友美子さん

慶應義塾大学卒業後、調布市立図書館司書、立教大学兼任講師、国際子ども図書館非常勤調査員などを経て、現在は子どもの本の翻訳、研究、講演などをする。訳書は『としょかんライオン』(岩崎書店)、『ないしょのおともだち』(ほるぷ出版)など240点以上。4人の孫の誕生により読み聞かせの楽しみを再び味わっている。

取材・文/内橋明日香 写真提供/福本友美子、岩波書店