おさるだからセリフがない!?翻訳の裏話

── 福本さんは他の海外絵本の翻訳もされていますが、「おさるのジョージ」では、主人公のジョージにセリフがありません。翻訳するうえでの難しさはありますか。

 

福本さん:
英語の原文もそうですが、鉤括弧に入っているジョージが話す言葉はいっさいありません。でもジョージの心の声のようなものはあって、気持ちを表す場面が多く出てくるので、それをナレーションのように表現しています。

 

たとえば、「おや、あのひとたちは、なにをしているんでしょう? なにかみているようです。ジョージは、しりたくなりました」とか。

 

── 文章で気持ちを表しているんですね。英語は日本語とまったく構造が異なる言語ですが、訳す際に気をつけていることはありますか。

 

福本さん:
英語だと、年齢や性別に関係なく、一人称は全部「I」ですよね。でも日本語だと違ってきます。

 

男性と女性でも違うし、お年を召した方が使う言葉と小さい子が話す言葉も違います。さらに育った環境によっても違うし、昔の人と現代の人でも違うんです。それを話している方がどういう人かということを想像しないと、ピッタリ当てはまる日本語にはならないので、工夫のしどころです。

 

翻訳をするときには対象年齢を考えるのですが、「おさるのジョージ」は幼児から楽しめるので、なるべく難しい言葉は使わないようにしています。文化や習慣などで、日本の子どもには馴染みのない内容は、単語の訳だけではなく言葉を補うこともありますが、知らない言葉が出てきても、絵本には絵があるので助けられることも多いですね。

 

『おさるのジョージ としょかんへいく』(岩波書店)