インバウンド期待も「3つの懸念点」
しかし、さまざまなデータを見てみると、懸念すべき事項がいくつもあることは否めません。
1つ目は人手不足です。帝国データバンクが公表している「人手不足に対する企業の動向調査」によると、飲食店の77.3%、旅館・ホテルの62.3%が非正規労働者の人手不足を訴えています。
総務省が発表する「労働力調査」によると、2022年4~6月期の就業者数から、コロナ前の同期間(2019年4~6月期)における就業者数を産業ごとに差し引いてみると、宿泊飲食サービス業は43万人も減少。
他の産業に比べると明らかに人手不足にあえいでいます。つまり、いくら旅行したい人が国内外に多くいても、その需要に対応しきれる状況にないため機会損失が生じているのです。
2つ目は中国のゼロコロナ政策です。多くの国がワクチン接種などで重症化を抑制しつつ経済活動の制限を見直すなど「ウィズコロナ」政策に方針転換する中、中国は依然として厳しい行動制限などで感染拡大を徹底的に抑え込む政策を継続しています。
コロナ前(2019年)の訪日観光客の消費額を国別にみてみると、中国からの観光客が全体の約36%を占めていました。
しかし、中国では依然としてゼロコロナ政策が維持されているため、中国からの観光客が訪日するのは難しい状態が続いています。
そして3つ目は新型コロナの第8波の懸念です。現在は第7波がピークアウトし、新規陽性者数の推移も低位で落ち着いています。
ただ、過去2年間の経験則に従えば、再び年内に第8波が生じてもおかしくなく、仮にそうなれば観光や飲食業に吹き始めた追い風を逆風に変わりかねません。
円安を背景としたインバウンド消費への期待について、さまざまなデータを紹介しました。これらのデータは毎月、または四半期ごとに更新されるため、今後も定点観測をして円安が日本のインバウンド消費を押し上げたかどうかを確認していきましょう。
文/森永康平(経済アナリスト)
参考/日本政府観光局「訪日外客数の動向」 https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/
観光庁「訪日外国人消費動向調査」https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」 https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221007.pdf
総務省「労働力調査」 https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/4hanki/ft/index.html