「YUKO!」と呼ばれて

── 逆に、怒られたことで相手との距離が縮まることもあったりするのでしょうか?

 

安藤さん:
本音でぶつかって、相手との関係性が変わってくることはあります。中曽根元総理は、若い頃はすごく怖かったんです。でも、何度もインタビューを重ねて関係が築け、晩年は本当に優しくしていただきました。怒るくらい本気でぶつかってくれた方は、名前も憶えてくださいます。

 

たとえば2001年、アメリカのキャンプ・デービッドのとき。ブッシュ元大統領と小泉元首相の初の首脳会談があって、私は同行取材をしていました。ただ、40分予定していた首脳会談が1時間延びていたんです。それでも、部屋を出てきた途端、ブッシュさんと小泉さんが2人で革ジャンを着て、キャッチボールをスタートしていて。

 

時間が押していたこともあり、私が小泉元首相に「総理!」と声をかけたんです。そしたらブッシュさんに「ちょっと待って。記者会見をするのにはまだ早い」と怒られて(笑)。

 

ただ、ブッシュさんは、後で行われたインタビュー取材も含めて、私の顔を覚えてくださったようなんです。

 

それから約半年後。ブッシュさんが来日されて、私は記者会見室ではりきって、いちばん前に座って陣取っていました。でも、会見中は一生懸命挙手をしているのに全然指名してくれないんです。すごく落胆しました。会見が終わって、ブッシュさんは部屋を出て行きましたが、私は最前列に座ったままふてくされていて。

 

するとブッシュさんが戻ってきて「YUKO!」って言うんです…!私、そのとき足を組んで、ふんぞりかえっていたわけですが(笑)。本当にびっくりしました! 

 

「ごめん、君の質問に答えられなくて」と仰ってくださって、その後のレセプションで私の質問に答えてくれました。彼はすごく律儀な方です。超一流の人は、名前も憶えてくれるんですよ。

 

── インタビューをするとき、短時間で相手との信頼関係を築くためにどんなことをされていますか?

 

安藤さん:
自分を飾らないようにしています。最初に「今日はよろしくお願いします!」と元気よく挨拶して、インタビューでは聞きづらいこともちゃんと聞く。終わったら「今日は本当にありがとうございました!」ときちんとお礼をして帰る。

 

私もいっぱい失敗しているから、もう聞きたいことしか聞かないです(笑)。でも、聞きたいことは素直に聞く。わからないことは「わからないので教えてください」と言う。偉ぶらないで思い切って相手の懐に飛び込むことで、相手に本気度が伝わり、いい関係が築けるのではないでしょうか。

 

どうしてもスクープを取りたいというのがあって、言質(げんち・証拠になるようなこと)を取りたいとか、わざと怒らせるとか、インタビューにはいろんな手法があります。でも、それをやっても、どうやってもろくなインタビューになったことがないんです。

 

聞きたいことは素直に聞く。わからないことはわからないという感じですね。

 

PROFILE 安藤優子さん

キャスター、ジャーナリスト、社会学者。フィリピンの米軍基地潜入ルポ、アメリカ日系一世の記録などの海外取材レポートを担当。フジテレビ系「直撃LIVEグッディ!」などでMCを務めた。近著は『自民党の女性認識──「イエ中心主義」の政治指向』(明石書店)。


取材・文/間野由利子 撮影/坂脇卓也