「会社の外に出て起業したい」と社長に直談判

── そもそも会社にとどまらず、出向起業しようと思ったのはなぜでしょう?

 

松原さん:
やはりコロナ禍で打撃を受けていたので予算の獲得が難しく、面白いことが思いきってできないだろうと。新規事業の運営に携わっていたからこそ、会社のスピード感や温度感では、なかなか前に進められないのではないかと肌で感じていました。

 

もうひとつの理由は周りからのプッシュですね。神姫バスはベンチャー企業への出資も行っているので、起業家の方々とお会いする機会も元々多かったんです。直属の上司も含め、起業家や投資家の皆さんから「あなたは起業家に向いている」と言われたことも背中を押してくれました。

 

── 起業を考えるにあたって経産省の「出向起業等創出支援事業」に出会ったそうですね。

 

松原さん:
会社を立ち上げようと考えたときに資金繰りの問題に直面して、融資や補助金などを探していたんです。そんなときに経産省の補助金事業制度を見つけ、これなら会社に属して基本給をもらいつつ、自分で会社を起こせるだろうと。事業としてバスを使うので、会社との関係性を保ったまま独立できるシステムが最適だと思いました。

 

── 出向起業というスタイルはまだ浸透半ばですが、会社からの理解はすぐに得られたのでしょうか?

 

松原さん:
社内でも初めての例になるので、下から順番に話を上げていくと時間がかかりそうだな…と思い、直接社長に相談しにいったんですよ(笑)。社長自身が「チャレンジする社員を応援する」というスタンスかつ、風通しのよい会社なので大丈夫だろうと。

 

社長はすぐに「OK」を出してくれましたが、他の役員の方々からは反対の声もありました。なかには「事業が成功したらそのまま辞めてしまうんじゃないか」との意見もあり…。会社との信頼関係を保つためにも「新規事業を立ち上げる経験値を上げて戻ってきます」と説得しました。

 

本格的なサウナと路線バスが融合した「サバス」

── 出向起業して事業を進めるには金銭面でのハードルもあったのでは?

 

松原さん:
銀行の融資にもチャレンジしたのですが、“サウナバス”という事業の実態が見えにくいうえ、そもそもの出向起業自体が浸透しておらず。「それって独立じゃないですか?」と創業支援金を借りることができませんでした。

 

ただ、ありがたいことに経産省の補助金制度の申請が降りて。初年度にかかった費用の二分の一(最大500万円)を負担してもらえることになりましたが、補助金は後払いなので手元から次々と現金がなくなっていくんです。

 

サバスの予算は1000万円以内と考えていましたが、安全面などに配慮するとどんどん予算が膨れ上がり…。お金を支払ったら経産省の補助金を申請して、入ってきたお金でまた次の支払いをして…という自転車操業でなんとか乗り越えました(笑)。