2011年にうつ病を発症したキャスターの丸岡いずみさん。回復後は、うつ病に関する著書の出版や講演会なども行っています。そんな丸岡さんはご自身がうつ病を患う前から、ひきこもりの子どもを取材しており、今でもある女性と交流があるそう。そんな彼女に「ずっと謝りたかった」こととは。

「ひきこもり」とは無縁だと思っていた

丸岡いずみ
穏やかにお話をされる丸岡さん

── 2011年に丸岡さんがうつ病を発症される前から、ひきこもりの少女について取材をされていたそうですね。

 

丸岡さん:今から約25年くらい前からですね。私は当時、大学を卒業して北海道文化放送でニュースキャスターをしていました。そのとき、編集長から「5月5日のこどもの日で放送する企画を考えて」と言われて、取材をしたのが始まりです。

 

── 子どもにまつわることにもともと興味があったのですか?

 

丸岡さん:いえいえ。学生時代の自分とはまったく共通項がなくて。子どもの日の企画も、はじめはレジャー施設がオープンするとか、何か楽しげな企画がいいのかなって漠然と考えていたんです。

 

同時に、本屋さんに行って他にヒントになるものはあるか探していたら、たまたま書棚にひきこもりについて書かれている本が目に止まりました。

 

私も不勉強で、「不登校」という言葉は知っていましたが、「ひきこもり」という言葉はそこで初めて知りました。手に取ってその本を読んでみると、ひきこもりって不登校とは全然違う、こんなにたくさんのひきこもりの子が増えていることを知りました。

 

── 当時はまだ、「ひきこもり」という言葉が今ほど世の中に浸透していなかった頃でしょうか。

 

丸岡さん:1990年後半くらいでしょうか。まだ私は聞き慣れなかったですね。

 

編集長的には5月5日の子どもの日、子どもがワクワクし、家族と楽しめて視聴率が取れるような企画を期待しているのではないだろうか。そんなことも頭をよぎりました。企画も固まりきっていなかったので、追い詰められたという心境もありました。

 

いろいろ迷いつつも企画のテーマを「ひきこもりの子どもについて」で提案をしたのですが、編集長からは「いいんじゃない」と言われて。

深夜3時に届くFAXで「わかったつもりに」

丸岡いずみ
当時の企画を通し、引きこもりという言葉を知りました

 ── どのように取材を進めたのでしょうか。

 

丸岡さん:当時、小学6年生の女の子を取材しました。彼女が不登校の子どもが通う塾に行っていたので、私も毎回通いつめて。授業が終わった後にちょっと話をする感じから始まりました。

 

私は当時、ひきこもりについてそれほど知識はなかったのですが、彼女のような子どもたちの手助けになればと思ったんです。そんな気持ちを塾長に伝えると、塾長も興味をもってくださって、私の取材にも賛同してくれました。

 

次第に少女とも仲良くなって、自宅にもお邪魔させていただいて、ご家族とも仲良くなり、企画をシリーズで放送することができました。

 

── 丸岡さんの真摯な気持ちが伝わったのでしょうか。その少女とはどういったやりとりをされていたんでしょうか?

 

丸岡さん:当時ファックスの時代だったんですけど、彼女から毎日深夜3時くらいにFAXが届くんですよ。眠れないって。こんなことがあった。あんなことを友達に言われたって、彼女が紙に書いて送ってくるんです。

 

私は毎回そのファックスで目が覚めて、彼女が送ってきたFAXの文字を読んでいました。彼女の心の有り様がわかったつもりでした。

 

でも、それが取材を通して彼女の言葉が全部消化して聞けていたのかと言うと、あの頃はそこまでできていなかったと思います。

再会した彼女が発した言葉

丸岡いずみ
自分がうつになって気づいたことも

── 2011年に丸岡さんご自身がうつ病を経験されたことで、気づいたこともあったと?

 

丸岡さん:反省することはいろいろありますね。当時、彼女を取材していたときは、彼女の体調の波があったり、彼女が話したくないことに対しても、私は踏み込みすぎた。当事者になって気づくこともたくさんありました。そのことについて、彼女に謝りたいという気持ちも湧いてきました。

 

彼女とは取材が終わった後も交流が続いていて、私がうつになったとニュースで知って、連絡をくれたんです。私は療養中で徳島の実家にしばらくいましたが、私が回復するまで待ってくれて。その後、体調が良くなってから、徳島まで会いに来てくれました。

 

── どんなお話をされたんでしょうか?

 

丸岡さん:2人で温泉に浸かっているときに、自分が踏み込みすぎたんじゃないかって。それはどうしてもお詫びしたかったって言ったんです。すると彼女が、「友達だと思っていたから」と。

 

彼女の言葉を聞いてすごくホッとしましたね。あのときの言葉が傷ついたとか、そういったことは、彼女の口からはいっさいでなかったです。

 

── 胸のつかえが少し取れたような。

 

丸岡さん:少しホッとしましたし、彼女との出会いは、私の仕事、人生においても大きな転機になっていると思います。

 

その後、私のうつも回復して今は元気に日々過ごしていますが、大人になった彼女との交流も今も続いています。

 

PROFILE  丸岡いずみさん

北海道文化放送アナウンサーとしてキャリアをスタートさせ、日本テレビに中途入社。報道記者として警視庁捜査1課を担当し、その後キャスターに。日本テレビを退社。フリーとして活動。主な著書『仕事休んでうつ地獄に行ってきた』(主婦と生活社)
取材・文/間野由利子 撮影/井野敦晴