トラブルになる前に相談を
── 炎上に限らず、何か問題が起きたときに早い段階で弁護士に相談したほうがいいと思っても、ハードルが高いように感じてしまいます。
海老澤さん:
私自身も弁護士になる前は、ちょっとしたトラブルのときでも「弁護士に相談しよう」とは思い至らなかったですし、企業やブランドの方からもそのような声をよく聞きます。
ただ、弁護士に相談するなら早ければ早いほうがいい。できればトラブルになる前にご相談いただくのがベストです。
多くの場合、トラブルが起きて時間がたてばたつほど、できることや取れる方法が限定されていきます。絡まりきった糸をほどくには時間も労力もかかりますよね。そんなイメージ。その分、費用も高くなるし、気持ちも後ろ向きになりがちです。
もちろん予想できなかったり、自分では避けられないトラブルは仕方ないのですが、そうでないものは、できればトラブルが起きる前にトラブルの芽を摘んでおけるといいですね。
トラブルの前にご相談いただくことで、時間も費用も節約できますし、何といってもポジティブな気持ちで取り組めます。
これまでファッション業界は、大手企業などは別として、弁護士に相談するという感覚があまりなかったように思います。実際、関係者の方から「どこに相談に行けばよいかわからなかった」「弁護士は敷居が高い」といった声もしばしば聞きました。
弁護士をより身近に感じてもらうため、SNSやセミナー、講演などを通じてさまざまな情報を発信するようにしています。
また、ファッションローに詳しい同僚弁護士とともにファッション業界に特化した専門チーム「ファッションロー・ユニット」も発足させました。
こうした積み重ねが、業界全体の権利や法に関する知識の底上げにつながることを強く願っています。
PROFILE 海老澤美幸さん
弁護士・ファッションエディター。1975年生まれ、慶應義塾大学法学部卒。自治省(現・総務省)を経て、1999年宝島社に転職し、『SPRiNG』編集部所属。2003年渡英、スタイリストのマルコ・マティシック氏に師事。帰国後の2004年よりフリーランスのファッションエディターとして活動。2012年一橋大学法科大学院入学。2017年に弁護士登録。
取材・文/鷺島鈴香 本人写真提供/海老澤美幸