具体的な相談内容と傾向
── 海老澤さんの元に寄せられる相談は具体的にどういったものなんでしょう。
海老澤さん:
ファッションローというと、最近SNSでもよく話題となっている服のデザインのパクリやブランドロゴの模倣などのイメージが強いかもしれません。実際にもコピー商品や商標権侵害、著作権侵害など、いわゆる知的財産権に関するご相談は多く、おおむねご相談件数全体の4〜5割ほどでしょうか。
多いのは、契約で不利にならないようチェックしてほしい、契約の相手方との交渉についてアドバイスしてほしいなど、契約に関するご相談ですね。
新たなサービスをスタートするにあたり、そもそもスキームに問題がないか、どういった契約を結べばよいかといった助言をすることも増えています。
また、インフルエンサービジネスに関するご相談がとても増えており、インフルエンサー向けの研修やセミナーの講師を務めることも。
最近は、広告に炎上の可能性がないかチェックしてほしいといったご相談もありますね。
炎上にどう向き合うか
── ファッション業界では、これまでにもさまざまな炎上騒動がありました。広告が「人種差別的」とされて国際問題になる、「古いジェンダー観だ」と批判され不買運動につながるなど…。
海老澤さん:
炎上の原因はさまざまですが、消費者の人権感覚やジェンダー観の変化に企業が追いつけていないことはひとつの大きな要因ではないかと思います。
ファッションはイメージやブランディングがとても重要なので、炎上はそうしたイメージやブランディングに傷をつけることも。現代社会で表現する企業やブランドには、こうした炎上リスクに備えた準備や体制づくりが必要だと思います。
これまでの炎上ケースを見ると、なぜその表現を選んだのか、その表現により何を伝えたかったのかを十分に検討できていないのでは、と感じるものも多い。
広告というのは企業のメッセージですよね。企業やブランドとして、その広告でどんなメッセージを伝えたいのか、なぜその表現を採用するのかをあらかじめ十分検討することが大切だと思います。
その際、社内の多くの人の目を通して幅広い意見を集めることも有用です。
また、経営層や担当従業員はもちろん、組織全体の意識を高めることが重要だと考えています。
── もし炎上してしまったらどのような対応がベストでしょう。
海老澤さん:
企業やブランドは、法律やメディアの掲載基準などに触れるものでなければ、広告でどのような表現をするかは自由です。
一方、その広告を見た消費者が、営業妨害や名誉毀損などに至る過剰なものを除いて、「こういう表現は不快だ」「女性蔑視の視点がある表現を改善してほしい」と声をあげ批判することも自由。
広告に対していろいろな意見があるのは当然で、企業には一定の批判への覚悟が必要なのではないかと思います。こうした消費者の声や批判を正面から受け止め、きちんと説明することが、経済活動をして利益を上げている企業やブランドの社会的な責任ともいえるのではないでしょうか。
「炎上したから」と広告を安易に下げてしまうのではなく、なぜこのクリエイターを起用して、なぜこういう表現にしたのか、どういうコンセプトで適切と判断したのかといった点をていねいに説明することが重要だと思います。
また、炎上した場合には、どんな内容をどのタイミングでどう公表するのか、謝罪するのかなどを十分検討した上で慎重に対応する必要があります。たとえば、炎上すると慌てて謝罪してしまうことが多いですが、ケースによっては謝罪が後々自社にとって不利になることも。早い段階で専門家にご相談されることをおすすめしています。