ハイブランドのコピー商品、業界で働く人々の不安定な労働条件、広告表現をめぐる炎上…。

 

ファッション業界におけるさまざまな問題解決の手立てとなるのが、ファッションローです。啓発に力を注ぐ、弁護士の海老澤美幸さんにお聞きしました。

ファッションローとは何か

── そもそもファッションローとは何でしょうか。

 

海老澤さん:
ファッションやファッション産業に関わるさまざまな法律問題を取り扱う法分野の総称です。

 

ファッションローという法律があるわけではなく、民法や著作権法など、いろいろな法律が関わってきます。ファッション産業の単位で法律や法的問題をとらえ直すことで、ビジネスに即した柔軟な解決策を導き出すことができます。この分野を広げ深めることは、日本のファッション業界を守るためにも重要だと思っています。

 

── 成立の背景は?

 

海老澤さん:
ファッションローという分野が注目されるようになったのは、2000年代になってから。

 

その理由はさまざまですが、IT技術やデジタル化が急激に進んだことにより、デザインを簡単にコピーすることができるようになりました。機を同じくしてファストファッションが台頭することにより、模倣品が増えたといわれています。

 

さまざまな理由で注目されるファッションロー

こうした状況の中、ファッション業界を専門とする法律家が必要とされるようになり、2010年、アメリカのフォーダム大学法科大学院にファッションローの研究教育機関が誕生したのです。

特殊な業界だから翻訳者が必要

海老澤さん:
成立の背景は、知的財産権の問題が大きいのですが、ファッションローが重要な意味を持つのはそれだけではありません。

 

ファッション業界は、流行のサイクルに合わせて、短期的な仕事が多く、またスケジュールもタイトなのが特徴。そのため、とくに日本のファッション業界では、見積書や契約書を作ることなく、口約束で進むことが多くなっています。それが未払いや不当な値切りなど、トラブルのもとになることも多い。

 

仕事の流れが速いため、ブランドやデザインの保護がどうしてもあと回しになりがちです。

 

せっかく海外展開が決まったのに、海外で商標登録していなかったためにブランド名を使えず、泣く泣くブランド名を変更する…なんてことも。

 

また、ジェンダーや文化の盗用、サステナブル、昨今はメタバースへの進出など、ファッション業界は多くの問題に直面しています。

 

ファッション企業やブランドがさらに国際的に活躍していくためには、業界全体でこうした問題に正面から取り組むことが重要です。そのためには、ファッションローの視点が不可欠といえます。

 

ファッションローは国際力強化にもつながる

── ファッションエディターの肩書きも持つ海老澤さん独自の視点も生きるでしょうね。

 

海老澤さん:
ファッション業界は、関連する職業の種類が多く、仕事の回し方も複雑で、業界独自の慣例や専門的な用語なども多い。また、一見華やかに見えますが、長時間労働やパワハラ、セクハラ、低賃金待遇なども根深い問題です。

 

柔軟な解決策を導き出すためには、業界の実情や特殊性を知ることがとても重要。そういう意味でも、業界に特化した専門家が必要だと考えています。

 

個人的には、業界に特化した専門家は、その業界の慣例や専門用語を法律的な解釈や用語に翻訳する翻訳者のような存在だと思っています。