「大変だけど続けられる仕事」を見つけてほしい

── 漫画家を続けてきたなかで「だめだ、書けない!」「間に合わない!」と焦ってしまうシーンはあるのでしょうか?

 

マキさん:
良くも悪くも、わたしはあまり焦らないタイプなんですよ。締め切り前日に「ああヤバい。描けてないなぁ」と考えながら、ついYouTubeを観てしまっていたり(笑)。 でも、こういうのんびりした性格のおかげで、ストレスを溜めずにこの仕事を続けられているのかなとも思いますね。

 

以前に、ある作家の方が「何も書かなくても、もう紙に向かっているだけで仕事だ」というようなことをおっしゃっていて、それがすごく印象に残っています。たしかに目に見えて進んでいなくても、向き合っている時間は仕上げるまでの過程なのかもしれません。向き合ってれば、急にスラスラっと描けたりもしますから。

 

あとはコワーキングスペースを使ってみたり、場所を変えて気分転換するのも大事にしています。なので、あまり根を詰めて部屋のなかで途方に暮れるようなことはなく、うまく息抜きもできていると思います。

マキヒロチ著『いつかティファニーで朝食を』書影

 ── マキさんなりの、仕事との上手いつき合い方を掴んで続けていらっしゃるんですね。

 

マキさん:
どんなことでも「続ける」ってなかなか難しいことだとは思うんですけど、「大変だけど続けられる仕事」というのが大切なんじゃないかと考えています。

 

ファッションメディアで仕事をしている友人がいるのですが、すごく忙しくて本当に大変そうなんですよ。だけど、一緒に働いている仲間が素敵で、そこに魅力を感じているから彼女はたぶん続けている。「大変さ」を凌駕するものがある仕事なんだな、と勝手に感じています。

 

まさに漫画は、わたしにとって「大変だけど続けたい仕事」。大変だなあ、辛いなあ、と思っても描くことは楽しいですし、それを凌駕する喜びのようなものがあるんだと思います。

 

それに、わたしは10代から20代にかけて、本当にたくさんの編集の方と出会って、企画が立ち上がってはダメになり…ということをずっと繰り返す日々がありました。だけど、『いつかティファニーで朝食を』のようなヒット作を出すことができたのも、やっぱり続けていたからに他なりません。

 

出会いの早い、遅い、といった運もありますけど、いつ自分にピタッとくる瞬間が訪れるのかはわからないですから。そういうチャンスに巡り合うのも、やっぱり続けてないと。わたしも早くに諦めて辞めていたら出会えていなかったわけですしね。経験を経て、「大変でも続けられる仕事」を、愚直に続けるということがいちばん大切なのかもな、と思えるようになりました。

 

PROFILE マキヒロチさん

漫画家のマキヒロチさん

漫画家。『いつかティファニーで朝食を』『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』『SKETCHY』などを手がけ、女性を中心に多くの支持を得る。現在は、コミックバンチにて『おひとりさまホテル』を連載中。

取材・文/中前結花