『いつかティファニーで朝食を』『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』などヒット作を数多く手がける漫画家・マキヒロチさん。マキさんにとって、漫画を描くということは小学生から続けてきたライフワークであり、「大変でも続けられる仕事」なのだといいます。長く続けるための向き合い方について、教えていただきました。

「変わりたくない」気持ちが「やめたい」を思いとどまらせた

── 『いつかティファニーで朝食を』がヒットするまでの紆余曲折について、以前Twitterで発信されていましたよね。多くの編集者との出会いや別れ、ともすれば諦めたくなってしまうような状況のなかで、それでも漫画への想いが消えなかったのはなぜなのでしょうか?

 

マキさん:
これは、「おうし座あるある」なんじゃないかと勝手に思っているんですが…根底に「あまり動きたくない」「変わりたくない」っていう気持ちがあるような気がします(笑)。

 

というのも、わたしは小学2年生のときに『聖闘士星矢』を好きになったのですが、そこで「わたしも漫画を描くんだ!」って決めてしまったんですよ。決めちゃったから、もう変えるのは嫌、というのが正直なところで。

 

他にやりたいことがあるわけじゃなく、とにかく漫画が好きなので。「やってやるぞ!」みたいな熱い想いよりも、「このままの人生がいいな」という気持ちが強い気がします。経済的に辛い時期も、やっぱりやめようとは思わなかったですね。

 

なかなか売れなかった時期は、「長期連載をやりたい」「単行本も出したい」という具体的な目標がいくつかあったことも大きいかもしれません。編集の方からの依頼をきっかけに『いつかティファニーで朝食を』や『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』という作品を出すことができたあとは、今度は「自分の描きたいテーマでゼロから漫画を作ってみたい」と、目標が変化しました。

マキヒロチ著『スケッチー』書影

それが叶ったのが、スケートボードをテーマにした『SKETCHY』でした。週に3回以上は自分でもスケボーの練習をしたりして、「何が何でも描きたい!」と気持ちで挑んでいたので、思い入れも本当に強いんです。あれ以上に描きたいものが今はちょっと見つからないほどで。

 

とはいえ、今のアシスタントとのチームで仕事を続けたいという気持ちが強いので、目の前の求められているものを続けながら、また次に描きたい! と思える題材を気長に探せればと思います。今はそういう続け方ですね。

 

── 今チームを組まれているアシスタントさんたちとも、いい関係性なんですね。

 

マキさん:
長く一緒にやってくれている人が4人ほどいます。他に単発でお願いする人もいますが、仕事内容が複雑なので、一から関係を構築するのはなかなか難しい部分もあるんです。

 

自分のチームから成功して巣立っていく人もいて、そのときはめちゃくちゃ感動してしまいますね。文化庁メディア芸術祭で新人賞を獲った人もいるんです。わたしには縁がなかった賞を手にしたという知らせには、自分のこととはまた違った大きな喜びを感じます。

 

そういう才能あふれる人がすごく優秀なアシスタントかというと、そうとも限らないのが、またおもしろいところなんですが(笑)。実際、わたし自身も有能なアシスタントとは言えなかったかも…。長くお世話になっていた花津ハナヨ先生は、すごく手を焼いていましたから。

 

だけど、「自分の漫画で成功するんだろうな」という人は、なんとなくわかったりするものなんですよね。だから、アシスタントで上手くいかないからといってダメだということでは決してないとも思います。