土日に集中しやすい商談とシフトとのバランスが課題

── 制度の導入を進めるときに、課題になったことはありますか?

 

石田さん:
子育て中で土日に休みを取りたいという女性社員が多いので、土日に集中しがちなお客様の対応とどうバランスを取るかが課題になり、調整が難しかったですね。

 

桃栗柿屋では、新築とリフォーム、不動産の3事業を展開していますが、対応できる最低人数を定めて、同じ業種で働く社員同士で相談をし、休日を取る曜日を決めるというルールにしました。会社組織がさらに拡大してきた2015年頃です。

 

また、若手社員が制度を使いやすくするための工夫も随時行っています。

 

たとえば、これは別の制度ですが、仕事だけでなくプライベートも充実させてほしいという思いから、家族や恋人、友人と1泊2日以上の旅行に行く際には、サイコロを振って出た目×1000円のおこづかいが支給されるんです。プラスしてお土産代として2000円も出ます。

 

── おこづかいが出るだけでも嬉しいのにサイコロの目でその額を決めるなんて面白いですね!

 

石田さん:
また、社員4人以上で食事に行くと1万円が支給されます。自由でユニークな取り組みで新しい風を吹かせたいという思いから生まれた制度が複数あるんです。先輩社員たちは若手社員に使ってもらえることを意識しながら、積極的に活用しています。

 

── いろいろなアイデアで制度の浸透も進んでいるのですね。「週1三時」退勤の制度によって、社内に新しい変化は生まれましたか?

 

石田さん:
月に1回、社員全員が揃う全体ミーティングで、「Good&New」といって最近あった良いことや新しいニュースを全社員に共有しているんです。みんなに提供できる話題を聞くと、やはり午後3時に退勤した後のトピックを提供していることが多いのを感じます。

 

普段から社員の距離が近く仲が良いぶん、コミュニケーションがさらに増えました。プライベートの話を通じて、よりお互いを知って理解し合う循環ができていると思います。

 

仕事をしている桃栗柿屋の女性社員
オフィスで仕事する女性社員たち

── お互いの家族や趣味のこと、またインプットしたことなど共有する機会が増えたのでしょうか。

 

石田さん:
そうですね。雑談が増えたと思います。どこかへ遊びに行く予定を話したり、後日その感想を誰かが聞いたり、何気ない会話が社内のいたるところでされています。午後3時に退勤後は何をしてもいいので、そういった面も良い方向へ働いていると思います。

社長には実家を飛び出しパートナーと起業した過去が

── 社長の野々村新治さんの「家族を犠牲にしない働き方をしたい」というメッセージが力強く印象的なのですが、この制度もそういった想いから生まれたそうですね。

 

石田さん:
もともと野々村社長は瓦職人で、跡取りだったのですが、実家を飛び出して自分でこの会社を立ち上げたという経緯があります。

 

そのとき、パートナーと二人で新しいスタートをきったことは大きな節目だったようで、心のゆとりをもって働けて、帰宅しても仕事のことが話せ、会社でも家族の話ができる環境をつくりたいと思っていたようです。

 

── 野々村社長ご自身のご経験から生まれた強い想いがあるのですね。一方で、ひとり暮らしの社員に対してはどんな思いがおありでしょうか。

 

石田さん:
できるだけ実家に帰りやすいようにと制度設計をしています。たとえば、休日の前日から「週1三時」退勤の制度を取得すると帰省ラッシュを避けて移動できると思います。実家が県外にある社員が増えているので、そのぶんこの制度も役に立っているのではないかと考えています。

 

── そのほかにはどんな活用例がありますか?

 

石田さん:
子育て中の女性社員は、空いた時間を自分ひとりの時間に充てることもあるようで、「リフレッシュ効果が大きい」と話してくれました。ママ社員からは「週に1回、数時間でも余裕をもって買い物や家事に使える時間があるのは本当に助かる」とよく聞きます。

繁忙期でも誰もが週1回、午後3時に退勤できる体制づくりを

──  今、課題に感じていることはありますか?

 

石田さん:
繁忙期はどうしても仕事量とのバランスを取るのが難しくなることです。全社員が気兼ねなく希望通りのシフトで、週1回、制度を利用できることを継続する体制づくりが課題になっています。

 

ペーパーレス化など業務の効率化は進めていますが、お客様あっての事業を展開しているため、バランスが崩れそうな時期もあります。

 

現在は、事業部や職種ごとに、月1回の全体ミーティングで休みの取り方や働き方など情報共有をするようにしています。特に事務職は、誰がどんな仕事をしているのか見えにくい部分が多いので、丁寧にタスクを共有し、誰かが午後3時で退勤したときにまわりが迅速にフォローできるような体制をつくっているところです。

 

誰かひとりが制度を利用しづらい状況にならないように、特に若手社員が「制度を使いたい」と言いやすい環境を目指して、これからも手を入れながら制度の「楽しさ」を追求していきたいです。

 

 

「週1三時」退勤の制度に、社長自身の人生の節目に苦楽をともにしたパートナーへの想いも込められていたことを知り、「社員同士の仲が良すぎる」理由もわかったような気がしました。午後3時に退勤するこの制度により、家族や学びに心の余裕をもって向き合える時間を生み出し共有することが、テレワーク時代の信頼関係構築のヒントにもなりそうです。
 

取材・文/高梨真紀 写真提供/桃栗柿屋