恐怖心よりも“子どもを守る”ことに必死だった
社会的な立ち位置の把握や生活習慣の違いを理解しながら暮らすなかで、伊藤さんは改めて日本の便利さと安全を痛感しました。
「日本では何もしなくても、日々快適に過ごせます。それに対し、これまで駐在した国は不便なのが当たり前でした。
停電や断水はよく起こり、治安もよくないため夜外出するのは危険です。こうした状況のなかで、不測の事態に備えて準備を徹底しました。
たとえば断水に備え、雨が降ったら貯水する。停電で困らないよう、ろうそくや非常用電灯は欠かさないといったことです」
どの国でも治安が悪化し、子どもを連れて着の身着のままで帰国したこともありました。
「夫は危機意識が高く、何か危ないと気配を感じたら、ためらわずに帰国する姿勢を見せていました。
たとえば、ケニアで大規模な暴動が発生した際、夫のアメリカ人のビジネスパートナーが出国したのを見て、夫はただごとではないと感じたようです。
飛行機のチケットをすぐ手配して、翌日には帰国。荷物を持っていくと、飛行機に乗せてもらえない可能性があり、何も持たずに空港へ向かいました。
緊迫した状況でしたが、恐怖心よりも子どもを守ることに必死で、怖いと思う余裕はありません。それに、日本に戻りさえすれば、平和な日常が待っている安心感がありました」