不便な生活だからこそ、視点を変えて前向きに

断水や停電は当たり前、治安の悪さなど、日本では考えられない状況でしたが、伊藤さんは前向きに楽しむようにしていました。

 

「不便さだけに目を向けると、ネガティブになりがち。現実は変わらないので、快適な気分で過ごそうと、楽しみを見つけるのが得意になりました。

 

たとえば断水は誰かの家に集まってお風呂を借り、そのままお泊りをしてみんなでワイワイ過ごせるチャンスです。

 

停電のときはキャンドルを灯し、いつもとは違う雰囲気を味わえました。視点を変えるだけで、非日常を楽しむイベントに変えられるなと気づきました」

 

ふだんから話題にも事欠きません。友だちと会えば“昨日の断水のときは、貯めていた雨水で身体を洗ったんだ、水は茶色かったけどね”とか。

 

“あのお店のせっけんは質がいいよ”などのおしゃべりであっという間に時間が過ぎていったとか。不便さをどう乗り越えるかで盛り上がり、退屈さとは無縁だった様子。

 

「何かと口実を作ってはホームパーティを開いていました。何もしないでいるとわからないことだらけなので、情報収集の意味合いもありました。人と会って話をするのって楽しいとしみじみ思いました。

 

日本だと、なんとなくテレビをつけていることが多かったのですが、友だちと集まるのに忙しくて、駐在国ではテレビを観る時間もありませんでした」

 

また、どの国も多種多様な人が。そのなかで、ありのままの自分を受け入れてもらえる心地よさもありました。

 

「たとえば、日本だとどんなに気に入っていても、流行遅れの洋服で外出するのはをためらいますよね。あるいは、自分の考えが周囲と異なる場合、不本意でもまわりに合わせてしまうことも…。

 

でも、海外だと“あなたはそういう人なのね”と個性を認めてくれました。とりつくろう必要のない生活は、日本では感じたことのない開放感がありましたね」

※上記は、伊藤美穂さん個人の経験談・感想です。

取材・文/齋田多恵 写真提供/伊藤美穂さん