「嫌いなものこそ取り入れる」

── 現場で感じた経験を踏まえた上で、より良い保育の環境を生み出そうと情報を発信しているのですね。てぃ先生は保育にはどんな環境が必要だと考えていますか。

 

てぃ先生:
今、僕がしている情報発信は余裕がない状況下でどう対応したらいいかというものなんです。保護者にも先生にも言えることですが、本当は、余裕があったら皆さんいい保育ができると思っています。

 

たとえば、あと5分で家を出なくてはならないときに玄関で子どもから「靴履きたくない」って言われたらイライラしますよね。でも極端な話、あと2時間後に家を出るならどうですか。これは時間の話ですが気持ちの面でも一緒で、余裕があれば「こう伝えたらどうかな」と考えられます。

 

僕が本来、みなさんに大事にしてほしいことは、どれだけ時間と気持ちに余裕が持てるかということなので、それを引き続き発信していきたいと思っています。

 

でもそれは、親御さんたちの努力や工夫だけで変わるものではないんです。国の政策もそうですし、男性育休の取得率もそうですが、社会の仕組みとしてみんなが余裕を持って子育てができる環境であればいいなと思います。

カリスマ保育士・てぃ先生

── てぃ先生が提案する育児方法は多くの先生や保護者の方から支持されていますが、多くの情報が溢れている今、どうやって取捨選択していいか迷う方も多いです。

 

てぃ先生:
この時代だからこそ、自分があんまり好きじゃないとか、自分の価値観にない情報こそ得ると良いと思っています。

 

たとえば自分のTwitterのタイムライン見てみるとそこに真実があるんですけど、そこには自分が見て気持ちのいい情報しかないんです。その通りだ、面白そう、素敵だ、というつまり「いいね!」を押したいものしかない。InstagramやYouTubeもそうです。

 

でもそういうなかにいると、自分の価値観に合わない情報がやってきたときにすごく嫌な気持ちになるんです。自分にはない異物がやってくると、炎上させたり、当事者じゃないのに口を出したりするわけです。これは教育や保育でも一緒で、自分の気持ちのいい情報や価値観ばかりに目を通していると、それで対応できない子どもや保護者が出てきたときにお手上げになってしまいます。

 

「こういう考えあんまり好きじゃない」というものこそ取り入れていかないと知識の幅は広がらないと思っています。だから僕はタイトルを見ただけで「これ絶対苦手だ」っていう本も読みます。読み進めてみると、「これいいな」と思う情報がある。何百ページに1ページくらいですけど(笑)。

 

でも、その1ページがいざというときに「あの本にこうあったな」と思い返して、アレンジしてみたら目の前の子どもにうまくいった!ということがたくさんあるんです。こういう時代だからこそ、自分から情報を取りにいかないと偏った人間になってしまうと思って日々学びを続けています。

 

PROFILE てぃ先生

ちょっと笑えて、可愛らしい子どもの日常をつぶやいたTwitterが好評を博し、フォロワー数は55万人を超え、著書は累計60万部を突破。保育士として勤務する傍ら、その専門性を活かし、子育ての楽しさや子どもへの向き合い方などをメディアで発信。保育内容へのアドバイスを行う「顧問保育士」など、保育士の活躍分野を広げる取り組みにも積極的に参加している。

取材・文/内橋明日香 写真提供/てぃ先生