「今から両親を殺しに行きます」

── すごい体験ですね。

 

篠原さん:
でもね、やっぱり暴走している彼は寂しいんですよ。あるとき、小学3年生の時に自分を置いて失踪した両親の居場所がわかったんだと、彼が木刀を持って寺にやってきました。

 

「俺を捨てた親父とお袋の居場所がわかったから、これから殺しに行きます」と言うんです。

 

彼と二人で河原で話をしました。「お前がお父さん、お母さんを木刀で殺すということは犯罪を犯すということだ」と諭すと、彼は「いいっす、死刑でいいっす」と聞かないんです。

 

でも私が「ここまであんたを育てたおばあちゃんが、どれだけ悲しむか考えたことはあるか。せめておばあちゃんに恩返しをしてから行け」と伝えると、彼はボロボロ泣いていました。

 

自分が小学3年の時に親が突然、自分を放り出して失踪したら、それは恨みを持ちますよね。

 

ひとまず、時間を置いたほうが冷静になれるだろうと思い、彼は熱帯魚が好きだと言うから、熱帯魚の店で働かないかと持ちかけました。

 

電話帳ではじから熱帯魚店に電話をかけて、求人募集していないか聞いたんです。

 

そしたら、ある店舗が「体力はありますか。うちは水槽が大きくてスタッフが困っているんです」と言ってくれて、そこで彼は今、働いていますよ。

 

今、彼は両親を殺しに行こうとは思っていません。かなり大きな苦しみを持っていても、人との関わりで変化することがあるんです。だから、とても大きな苦悩を抱えている子でもきっと大丈夫だと思って、日々関わっています。

 

PROFILE 篠原鋭一さん

1944(昭和19年)兵庫県生まれ。駒澤大学仏教学部卒業。千葉県成田市曹洞宗長寿院住職。曹洞宗総合研究センター講師。同宗千葉県宗務所長、人権啓発相談員等を歴任。NPO法人自殺防止ネットワーク風代表。

取材・文/天野佳代子 本人写真/篠原さん提供 イメージ写真/PIXTA