日本銀行の黒田東彦総裁が講演のなかで「家計の値上げ許容度は高まっている」と発言。これをメディアが報じると炎上。ツイッター上でも「#値上げ受け入れてません」がトレンド入り。そして「誤解を招いた」と、黒田総裁が謝罪する事態に。発言の意図はなんだったのか?経済アナリストの森永康平さんが解説します。

「値上げの許容」はアンケート結果を引用しただけ

まず黒田総裁の発言が炎上した経緯を確認してみましょう。黒田総裁が引用したものは東京大学大学院の渡辺努教授らによる調査結果です。

 

この調査では日米欧5か国の人たちに対して、「なじみの店でなじみの商品の値段が10%上がったとき、あなたはどうしますか」という質問をするというものでした。

 

答えは2つ用意されており、「値上げを受け入れ、その店でそのまま買う」か「他店に移る」の二択です。

 

前回(昨年8月)の調査では日本だけが過半数以上が「他店に移る」と回答したのに対して、最新調査(今年4月22日~5月9日)では日本でも「値上げを受け入れ、その店でそのまま買う」が過半数を超えました。

 

黒田総裁はこの結果を紹介するかたちで、家計の値上げ許容度は高まっていると発言したのです。

 

実は黒田総裁のこの講演は議事録が日本銀行のホームページに公表されており、この発言の前後で何を話したかは誰でも確認することが可能です。

 

しかし、メディアは黒田総裁が「家計が値上げを受け入れている」と発言したかのように切り抜き報道をしたことで、物価高に不満が募る国民が怒った結果がこの炎上騒動の背景です。

90%以上の世帯が「物価は上昇する」自覚はある

しかし、この調査結果は決して特殊なものではなく、それ以外の経済指標でも同様の結果が発表されています。

 

内閣府が発表している消費動向調査(5月分)をみてみると、総世帯における物価の見通しは93.7%の世帯が「今後物価が上昇する」と回答。

 

これだけ連日のようにメディアが値上げラッシュを報じて入れば、世間が今後も物価は上昇すると思うのは当然のことでしょう。

 

しかも、足元の物価上昇の原因はコロナ禍におけるコンテナ不足や人手不足、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格、資源価格の高騰であることも同時に報じていますから、企業の値上げに対してもある程度は「仕方ない」と考える向きも増えるのです。

 

家計に物価の値上げを受け入れる余裕があるわけはなく、誤解を招きかねない表現を使ってしまったことは軽率だったかもしれません。

 

しかし、このように冷静に考えれば、黒田総裁の発言がここまで炎上する理由が分からなくなると思います。私たちはもっと冷静でいなければいけないのです。