コピーしました
お使いの端末は
この機能に対応していません

20年絶縁状態だった“毒親”。再会した姿は…

コミュニケーション

2021.03.01

毒親を介護することになった妹の苦悩

年齢を重ねていくと、だんだん親の介護が視野に入ってきます。スムーズに介護できる人もいれば、それまでの親との関係から介護ができないと悩む人も少なくありません。親子はわかりあえると限ったものでもないし、「家族だから介護しなければならない」わけでもないはずだから。

愛情なき母。家族は機能不全を起こしていた

アオイさん(44歳)は、2歳年上の姉とふたり姉妹で育ちました。父は多忙なビジネスマンで出張も多く、家庭を顧みる時間がありませんでした。母は寂しかったのでしょうか、長女のマイコさんを猫かわいがりしました。

 

「姉は成績もよくて運動もできる優等生。私は小さいときから、鈍くさくていじめられるタイプ。小学校へ入ると、先生からも『あのマイコちゃんの妹?』と驚かれたりして。勉強もスポーツも苦手でしたね。編み物とか料理とかは好きだったけど」

 

母はマイコさんに多くの習いごとをさせ、その送迎に時間をとられていました。アオイさんは、小学34年生になると自分の食事は自分で作るようになりました。その後、家族の食事もアオイさんの担当になっていきます。

 

「料理は好きだったけど、遊ぶ時間もなく家族のためにどうしてこんなことをしなければならないの?と思っていました。母や姉からお礼を言われたこともありません。たまに帰ってくる父は褒めてくれたけど、いつも私がやらされていることは知らなかったと思います」

 

機能不全家族といってもいい状態ですが、アオイさんは黙って家政婦役を務めました。その後、大学に入り、調理の道を究めようと栄養学を学びます。一方、姉は有名大学に入り、母の望むような一流企業に就職したといいます。

 

「私は大学3年生くらいから、ほとんど実家には帰らなくなりました。いいかげん、家の犠牲になるのをやめたかったんです。当時つきあっていた彼の家や友だちの家を転々としながら、アルバイトに励む日々でした」

 

親が学費の支払いを止めたので、アルバイトをかけ持ちまでしたアオイさん。なんとか卒業して就職するやいなや、彼女はアパートを契約して、ひとり暮らしを始めました。住まいは両親には伝えませんでした。親も親、彼女を探した形跡はありません。

 

「恋はしない」と断っても現れるニコニコ顔の男

料理関係の仕事に就いたアオイさんは水を得た魚のように、生き生きと仕事をしました。

 

「毎日が楽しかったし、とにかく仕事漬け。結婚はしなくてもいいと考えていたし、自分の経験からも、子どももほしくなかった」

 

ところが32歳のとき、仕事で知り合った7歳年上の男性から熱烈なアプローチを受けます。何度断っても、彼はニコニコしながら食事に誘ってきます。

 

「とうとう根負けして食事に行き、私がどんな幼少期を送っていたか、ざっと説明したんです。だから、人を愛せないと言おうとして彼の顔を見たら、泣いていました。私のために泣いてくれる人がいたなんてとただただビックリで」

 

誰も愛せない、誰も信じられない気持ちが強かった32年間。人を信頼できないのは自分の習性だと思っていました。

 

「私は子どもを産みたくないと条件を出したら、彼はそれでもいいと言うんです。プロポーズを断る理由がなくなりました」

姉からの急な連絡。実家に行ってみると

付き合いを経て、35歳で結婚。穏やかな生活が始まりました。ひとりが一番気楽でいいと思っていましたが、彼との生活は気楽より上等な心の満たされる時間だったといいます。ところが、5年後、突然、姉から連絡が。共通の知人から連絡先を聞き出したそうです。

 

「姉はひどく怒っていて、『お父さんもお母さんも死にそうなんだから、早く来て』って。相変わらず高飛車な態度でした。そこで断ればよかったんですけど、私、心が満たされていたから、ついつい実家に行くことにしたです」

 

家の中は荒れ放題、父親はほぼ寝たきりで、母は車椅子に座っていました。姉は鬼の形相で母親を怒鳴りつけています。アオイさんを見ると、挨拶の言葉すらなく、「私は今までさんざん世話をしたの。あとはあんたの番だから!」と、言い放って去って行きました。その後、アオイさんは行政と連絡を取り合って父を施設に入れましたが、母は自宅にいるの一点張り。夫と相談して、夫婦で実家の近くに引っ越しました。

 

「母はヘルパーさんが来ると、蹴飛ばしたり、噛んだりするんですよ。でも、左半身が麻痺しているので介助は必要。結局、私がほとんどの介護をすることに。今は職場に頼んで、休職扱いです」

 

母の顔を見ていると、「今日のごはんは固い」「マズイ」と幼少期に怒鳴られた記憶がよみがえります。それでも、アオイさんは自分の気持ちを棚に上げ、感情を押し殺して介護をしてきました。

 

「いつまで続くのかわからないから、どんどん私の気持ちが沈んでいく。いつ限界が来るかわからない状態です」

 

彼女を心配した夫が、母に施設に入れるよう説得してくれています。この先、彼女の心が再び平穏に満たされる日は、訪れるのでしょうか。

毒親を介護することになった妹の苦悩

施設入りを勧める夫

文/亀山早苗 イラスト/もちふわ

※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。

あなたにオススメの記事

コミュニケーションテーマ : 【その他】その他の記事

その他
もっと見る