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「子育てに愛のムチは不要」脳科学者が警鐘を鳴らすわけ

子育て

2021.12.08

体罰のイメージ

虐待は、身体に傷が残る体罰だけではありません。

 

乱暴に接する、怒鳴る…といった言動は、近年「マルトリートメント(以下・通称マルトリ)」と呼ばれ、子どもの脳の発育に悪影響があることがわかってきています。

 

マルトリで子どもを傷つけてしまったと我にかえったとき、私たちはどうすればいいのか。

 

『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版新書)の著者で、小児発達学が専門の友田明美さんに伺いました。

愛のムチがなくてもしつけはできる

── しつけだと思ってやっていたことが「マルトリ」かもしれない。線引きが難しいですね。

 

友田さん:

子育て中の親御さんから「先生は親から子へのしつけを否定するんですか?」とよく質問を受けます。

 

「しつけのためには愛のムチも必要」と考えていらっしゃるんですね。

 

愛のムチと称される、体罰や暴言は、恐怖によって子どもをコントロールしているだけです。そのときは言う通りにしたと思っても、子ども自身、なぜ叱られたのか理解できていないこともあり、意味がないんです。

 

恐怖によって行動した子どもは、それが当たり前になり自分の考えで行動することができなくなります。さらに言えば、子どもに暴力を教えることにもなってしまう。愛のムチは百害あって一利なし、ぜひマルトリのない子育てを意識していただきたいです。

 

── 体罰の悪影響を知ることは、子どもに手を上げる抑制になりそうですが、やはり言うことを聞かなかったり、約束を破ったときなどは叱責してしまう気がします。

 

友田さん:

そうですね。そうした行動は、「子どもをきちんと育てなければ」という親御さんの気持ちによるものだと思います。

 

でも、体罰をしなくてもしつけはできます。前回「育児のストレス緩和」をテーマにお話ししましたが、まずは保護者の育児ストレスを取り除いて子どもに向き合うこと。さらにペアレントトレーニングやアンガーマネジメントなど、専門家のノウハウを実践することも有効です。

 

「愛の鞭(ムチ)ゼロ作戦(※1)」というキャンペーンをご存知ですか?

 

厚生労働省が「子どものしつけには体罰が必要」という誤った認識を社会から一掃するために作成されたものです。子どもの気持ちに寄り添って、健やかに育てるための、以下5つの考え方です。ご自身やご家族でぜひ共有してみてください。

愛の鞭(ムチ)ゼロ作戦

1.子育てに体罰や暴言を使わない
まずは、子どもを叩いたり怒鳴ったりしないことを決めましょう。

 

2.子どもが親に恐怖を持つとSOSを伝えられない
親に恐怖心を持った子どもは、親の顔色を見て行動するようになります。心配ごとを相談できず、将来非行やいじめなどに発展することもあるということを意識してください。

 

3.爆発寸前のイライラをクールダウン
親自身が疲弊していると、子どものちょっとした言動でも爆発してしまいます。そうなる前に、深呼吸する、ゆっくり数をかぞえてみる、外気にあたるなどしてクールダウンしましょう。

 

4.親自身がSOSを出そう
育児が大変なときには負担をひとりで抱え込まずに、家族に分担してもらいましょう。難しい場合は、自治体やNPO、企業(ファミリーサポート、家事代行サービス、一時預かりなど)を積極的に利用しましょう。子育ての苦労について気軽に話せる友人がいれば、相談してみましょう。

 

5.子どもの気持ちと行動を分けて考え、育ちを応援
子どもが反抗すると、「わがままになってはいけない」と指示的に接してしまいがちですが、反抗は自我の芽生えであり成長の証です。特に2、3歳の子どもの「イヤ」は、最初の自我の芽生えですから、親は感情的にならないでください。必要に応じて助け船を出しながら、子どもの考えを引き出し、応援してあげましょう。

親子間の愛着形成でマルトリの傷は癒やせる

── 本当に体罰は悪影響しかないのですね…。とはいえ、マルトリを知らず、今まで怒鳴ってしまうこともありました。もう手遅れでしょうか?

 

友田さん:

マルトリによって、子どもの脳が傷つくとさんざん言いましたが、実は絶望ばかりではありません。

 

傷ついた脳を回復させることができます。

 

ただし早い時期に気がつき、適切な時期に治療をすることが大切です。

 

学習意欲の低下や多動などの傾向が子どものうちに現れると、大人になってからも、うつ症状や、早死、病気のリスクが増えることがわかっています。薬物や犯罪、非行とのつながりも指摘されています。

 

── 私たち保護者はどうすればいいでしょう。

 

友田さん:

親子間に安定した愛着を築くことです。

 

愛着とは、親と子の間に築かれる絆(きずな)のこと。親を港、子を船に例えると、わかりやすいかもしれません。港が安全基地として安定して機能していれば、船は大きな海に漕ぎ出していけるし、嵐で故障しても、港を一時避難場所として、故障を直すことができる。新たな旅立ちに不安があっても、それをコントロールしながら進むことができるのです。

 

親子間の愛着が、子どもの成長の土台となり、心や脳の健やかな成長へとつながります。

信頼関係のある親子のイメージ

── 愛着が築けていないと子どもはどうなりますか。

 

友田さん:

マルトリの影響で愛着障がいのある子どもの脳の神経回路を調べたところ、脳がやる気を感じると出す物質・ドーパミンが出にくいことがわかりました。

 

これは、たとえ褒められたりしてもやる気が出ず頑張れないということ。

 

意欲、喜び、ご褒美に対して、脳の働きが弱いのです。だからといって、決して愛着障がいのある子の子育てが難しい、厳しいと思ってはいけません。どんどん褒めて育ててあげれば、少しずつ回復していくのですから。

 

そういう子どもは、養育者だけではなく、さまざまな機関と連携し、社会全体で支援していくことが大切です。

 

── どうすれば安定した愛着が築けますか?

 

友田さん:

目と目で見つめ合う、手と手で触れ合う、抱きしめるなどのスキンシップや、微笑む・語りかけることで、安定した愛着が形成されていきます。

 

保護者の行動が子どもに与える影響はとても大きい。育児は、予想外の連続で親御さんも多忙だと思います。それでも時間をつくって、たくさんほめて育ててあげることが大切です。

 

 

マルトリによる傷は、回復可能。自分の育児の反省点を心にとめて、今後は、子どもをたっぷりほめ育てたいと考えさせられた取材でした。

 

PROFILE 友田明美さん

熊本大学医学部医学研究科修了。医学博士。同大学大学院小児発達学分野准教授を経て、福井大学子どものこころの発達研究センター教授・センター長・福井大学医学部附属病院子どものこころ診療部長。「子どもの脳の発達」の観点から保護者を孤立させない「とも育て」を全国に向けて啓発している。

取材・文/羽生田由香
(※1)愛の鞭ゼロ作戦|子どもすこやかサポートネット https://www.kodomosukoyaka.net/news/20170500.html

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