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夏の水分補給といえばやっぱり麦茶!毎日のように煮出しては冷やし、煮出しては冷やし。でもなぜ夏になると麦茶なんでしょう。水やほかのお茶でもいいのでは?と素朴な疑問が湧いてきます。そこで、明治41年に創業して以来、伝統的な製法で麦茶を作り続けている小川産業株式会社の3代目社長・小川良雄さんに、麦茶について教えていただきました。

 

麦茶はほかのお茶よりも腐りやすいって本当?

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▲煎る前の生の大麦

 

小川さん:

本当です。腐りますよ。3日間常温に置いておいたらあっという間に。麦茶は麦、つまり穀物から作られているから、消費期限が短いんですよ。だから煮出したらしっかり冷まして、冷ました後は冷蔵庫に入れておくこと!これが基本ですね。 安全に飲める期間は、あくまで目安ですが、煮出した場合は冷蔵庫に入れて翌日まで、水出しなら1日で飲み切った方がいいと思います。水筒に入れて持ち歩くときは、常温だと腐敗の原因になりますから、冷やした方がいいですね。 ちなみにペットボトルの麦茶には「ビタミンC」という名の添加物が入っていますから、自分で煮出して作る麦茶よりは日持ちします。ハッキリとは言えませんが、蓋を空けてから3日くらいはもつんじゃないかな?

 

簡単で美味しい麦茶の作り方とは?

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▲小川産業では釜で2度煎る昔ながらの製法を続けている

 

小川さん:

淹れ方はいろいろありますが、やっぱり煮出すのが一番おすすめです。煮出した味はまろやかで甘みがあってやわらかい麦茶だなって感じがするんです。 簡単に作るなら、麦茶の袋を入れてお湯が沸騰したら弱火で5〜6分煮出しておしまいにしちゃう。コクは少ないけど、あっさりしていて美味しい麦茶ができます。煮出した後、麦茶の袋を入れたまま30分〜1時間置いて冷ましておくとコクが出ますよ。 煮出さなくても、麦茶の袋を入れて熱いお湯を注ぎ5〜20分くらい待つだけで麦茶の色が結構出ます。その味わいもなかなか捨てがたいものがあります。 一番手軽なのは水出しです。水出し用の麦茶の袋を水に30分くらい入れておくだけ。うちはいつも水道水で作ってますよ。コクはないけどスッキリとしているので飲みやすいと思います。 麦茶は薄くてもそれなりの味と香りがしますから、濃さはお好みで調整するといいと思います。

 

美味しい麦茶選びのポイントとは?

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▲煎った大麦はぷくっと膨らみ丸くなる

 

小川さん:

雑味感、つまりエグミがない麦茶が美味しい麦茶です。雑味感とは飲んだ後に口の中になんか残る感じ。これはない方が全然うまい!ペットボトルの麦茶は携帯する場合などには便利だけど雑味感があるから、飲まないで済むのであれば自分で作った麦茶の方が味を楽しむという意味でもいいと思いますね。 もちろんどの麦茶を選ぶかによって味は変わってきます。選ぶポイントは粒を砕かない「まるつぶ」タイプかどうか。まるつぶタイプの方が雑味が出にくいし、美しく澄んだ水色(すいしょく)が楽しめます。現在主流となっている、粒を砕いたタイプは香ばしさやうまみ、香りがまるつぶタイプよりも落ちる傾向にあるんです。 また、まるつぶタイプでも煎る釜の大きさによって味が変わるんです。うちの釜は小さいから火が入りすぎず、麦の香りやうまみをしっかり残すことができるんです。逆に大手で使っているような大きい釜だと火が入りすぎてしまうので、色はきれいなんだけど苦みが出て、コクとうまみが少ない麦茶になっちゃうんです。 まろやかな味と香りを選ぶか、色合いとほろ苦さを選ぶか、それぞれのお好みで選ばれるといいと思います。 あとは、やっぱり作りたてが一番美味しい。お子さんには、「味覚を育てる」という意味でもペットボトルなどの作られた味ではなく、ご家庭で作った自然の味を味わわせてあげて欲しいですね。

 

どうして“夏は麦茶”なの?

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▲取材時は気温35度を超える猛暑日。47度もある工場内で1日中作業をする小川社長

 

小川さん:

やっぱり体を冷やしてくれる作用があるからでしょうね。麦茶の原料である大麦に体を冷やす効果があることがわかっています。これは茶葉で作る緑茶やウーロン茶などにはないものです。なので、熱中症で体温が上がったときや、夏バテで水分が不足したときにはピッタリなんです。 麦茶は平安時代〜室町時代までは貴族の飲み物だったのですが、江戸時代には麦茶を屋台で販売する「麦湯店」が登場しました。当時はまだ氷がなかったから、そこまで冷えていたわけではないけど、涼を楽しむ飲み物として庶民に親しまれていたんです。だから、昔から夏は麦茶を飲むという文化が根付いているんです。 ただしキンキンに冷やしてしまうと、喉ごしの涼を楽しむにはいいけど、体の中が冷え過ぎてしまって逆に体を温めようと余計に暑くなってしまうので、冷やしすぎには注意してくださいね。

 

「麦茶は健康にいい」と言われるのはどうして?

 

小川さん:

麦茶には現代人に不足しがちな食物繊維やビタミン、ミネラルなどがバランスよく入っているからです。さらに大麦を焙煎することによって発生する「ピラジン」という成分が血液をサラサラにしてくれるんです。血の流れがよくなると気持ちがスッキリします。そのため、麦茶はイライラを抑え、気持ちを穏やかにしてくれるともいわれています。麦茶がイライラを抑えてくれることについては、平安時代に書かれた書物にもちゃんと記載されているんですよ。 イライラを抑えて体を冷やす。さらにノンカフェインだから、夜は気持ちよく眠れる。麦茶はすごく理にかなった飲み物なんです。

 

社長が自ら実践するお気に入りの飲み方とは?

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小川さん:

僕は妻の実家で作っている昔ながらのすっぱい梅干しを麦茶に入れて、食べながら飲みます。今日みたいに暑い日でもこれがあるから熱中症にならないんですよ。 あとは、麦茶に炭酸水を入れて飲むのもおすすめです。簡単に作れるし、爽やか。ここにハチミツを入れても抜群にうまいですよ! ぜひみなさんもいろんな飲み方を楽しんでみてください。麦茶でティーパーティーなんていかがですか?

 

PROFILE 小川産業株式会社(東京都江戸川区)


明治41年創業以来、伝統的な製法を守りながら麦茶をはじめ、きなこや黒豆茶を製造・販売。現在は日本国内にとどまらず、モンゴルやアメリカにも販路を拡大中。昔ながらの香り高く旨みのある麦茶が国内外で人気を集めている。https://tsubumaru.jp

取材・文/田川志乃 撮影/粕谷麻衣子