持ち手マークがついた日清シスコのコーンフレーク「シスコーン」に、開け口が左右2つあるキユーピー「テイスティドレッシング」のパッケージ。普段何げなく使っている商品にも実は左利きの方への配慮がされたデザインが採用されています。その理由を企業の担当者に伺いました。
Twitterで話題になった「シスコーン」のパッケージ
「お子さまが器に『シスコーン』を盛りつけやすくするため、右手と左手を添える位置を表示し、2018年より採用しています。現在、『シスコーン』シリーズのレギュラー5品と期間限定商品の合計6品で採用しています」(日清シスコ株式会社 マーケティング部 藤井可奈さん)
日清シスコが販売する「シスコーン」には、左右についた開け口に加えて、持ち手マークがついています。
「持ち手マークは親子向けのプロモーション企画の一環として、お子さまの朝食づくりを応援するために導入をしたデザインです。『シスコーン』のキャラクターたちと共に赤と青の色使いで、文字の読めない小さなお子さまでも使いやすいデザインにしています。
開発当初から、右利き用・左利き用の両方を表示していまして、2019年にはパッケージ裏面にちょっとずつそそぎたい時に使える、『あんしんOPENガイド』をつけました。こちらも右利き用・左利き用の両方あり、袋を傾けた時に一気出てしまったり、こぼれたりしてしまうのを防ぐ仕掛けとなっています」(藤井さん)
このパッケージを採用することになった理由には、ある願いが込められているそうです。
「当社は、お子さまの成長の過程において、自分ひとりで何かを成し遂げるという成功体験を持つことが重要と考えています。『シスコーン』はお皿に盛り付けて牛乳をかけるだけで食べられるので、主にこちらの商品をご愛顧いただいている小学生以下のお子さまでも簡単に食事の準備ができ、成功体験を得られやすい商品です。
また同時に、親御さんには子どもに体験させることによって、お子さまの成長を見守る気持ちや、成長実感を持ってもらいたいという思いもあります。
左利き用のデザインを用意した理由についても、右利き・左利きに関わらずすべてのお子さまに成功体験を持ってもらいたいとの思いから採用しました」(藤井さん)
持ち手マークを導入した当時、ひとりで朝ごはんが作れるダンス動画をYouTubeで公開したそうですが、それから数年経って「シスコーン」のパッケージが「左利きへの配慮に泣ける」とTwitter上で話題となったそうです。
「SNSでも好意的なコメントをいただくことがありましたが、Twitterで大きく話題となったのは驚きでした。
右利き・左利きに関わらずすべてのお子さまに成功体験を持ってもらいたいとの思いから採用し、パッケージに印字をするという小さなことですが、結果としてこのように多くの反響をいただき、お役に立てていることは大変うれしく思います。
今後も多様性を尊重しながら、みなさまの暮らしが豊かになるような企業活動を続けていきます」(藤井さん)
ドレッシングの開け口 開発のきっかけは目薬
一方、マヨネーズやドレッシングなどの商品展開を行うキユーピーが開発した「易開封シュリンク」には、ミシン目の開け口が2つついていて、右利きの方も左利きの方も簡単に開けられる構造になっています。
「それ以前のパッケージの開け方は、まず縦に引っ張ってからぐるりと回して開けるので2アクション必要でした。こちらは左右どちらからでも、1アクションで開けられますし、開けるのに失敗もしにくくなっております。2009年からテイスティドレッシングのパッケージに採用しています」(キユーピー株式会社 研究開発本部 技術ソリューション研究所 高山崇さん)
開発のきっかけとなる出来事は、社内での雑談から生まれたそうです。
「当時、インフォーマルコミュニケーションというものが注目されていて、従業員同士のコミュニケーションが大切だと謳われていました。休憩をしながら雑談をできるスペースを研究所内に設置したのですが、そこで同期から当時のパッケージは使いにくいと指摘を受けまして。目薬のパッケージが使いやすいのを知っているかと聞かれたんです。
私は目薬を使っていなかったので知らなかったのですが、ちょうどその場にいた社内の料理人が持ってきてくれまして。実際に目薬のパッケージを剥がしてみるとミシン目通りに一発で綺麗に剥がれました。とても使いやすく、こちらにヒントを得て開発をスタートさせました」(高山さん)
開発の途中で、ドレッシングのパッケージに使用するフィルムの特徴から、思わぬアイディアが生まれたと言います。
「目薬の場合は容器にフィルムを巻いてから熱で収縮させて留めているのですが、ドレッシングに使用するフィルムは構造が異なり、すでに筒状のものが半分に折り畳まれている状態で工場のレーンに入ります。折り畳まれたフィルムにミシン目を入れるので、それを開くと、目薬のパッケージのように片側だけではなく、左右対称の両側にミシン目が入ることになります。結果、2つの開け口ができるのですが、これは右利きの方も左利きの方にも便利だというひらめきになりました」(高山さん)
実は偶然の産物だったというパッケージは、日本包装技術協会が主催する「2009日本パッケージングコンテスト」で食品包装部門賞を受賞したそうです。
「どうしたらより開けやすいパッケージを作れるかを考えた結果、左右対称の2つの開け口が生まれたという経緯です。容器のアイディアは思いがけないことから発展することもあります。パッケージのデザインは開けやすさや使いやすさなどの点から、できるだけ多くの方に使いやすいようなものを心がけて改良を重ねています」(高山さん)
また、商品のリニューアルなどのタイミングで変えているというパッケージは、時代と共に変化を遂げているそうです。
「昭和40年代頃には、プラスチック容器を食品用に使うとのことで何よりも安全性が最重要視されてきました。その後、ユニバーサルデザインが広く謳われていた頃に「易開封シュリンク」を商品化しました。
今は環境に配慮し持続的な社会を継続するSDGsが言われていまして、当社でも使用するプラスチックの量を減らすため、2019年からドレッシングボトルの軽量化などを進めています。もちろん、安全性もユニバーサルデザインも注目しなくなったのではなく、板についてきたことで自然と考慮するようになってきたのだと思います」(高山さん)
自身も左利きで、「左利きと右利きの相互理解」を深める活動を行っている日本左利き協会・発起人の大路直哉さんは利き手に関わらず、誰もが使いやすい商品が浸透することをこう考えています。
「右利きの方が90%で左利きの方が10%と言われ、生活のほとんどのものが右利き仕様に作られています。そんななか、左利きの方にも意識が向くような、実感を伴った好奇心を育むきっかけを作ってくださるのはありがたいと思っています。
利き手は生まれながらのものもありますし、ケガや病気など後天的な理由からものもあります。左右両利きのものが増えていくと、相互理解の機会が増えますし、利き手だけに限らず、マイノリティのことなどをはじめとした幅広い事柄や多様性への理解を深めるきっかけに繋がればと思っています」
取材・文・撮影/内橋明日香