常盤貴子さん

「主演ドラマでは、自分の考えをしっかり打ち出したいと思っていた」と語る常盤貴子さん。

 

主演ドラマを経験した後、さらに舞台でも活躍の場を広げていくと、今までとは違った世界が開かれたといいます。「ただ、やらされてる人になりたくない」という常盤さんが、仕事にかける思いとは──。 

脚本家とぶつかっても

── 20代の頃からドラマで主演を務め、その後、舞台でも活躍されています。ドラマと舞台を経験されて、どんな変化がありましたか?

 

常盤さん:

ドラマの主演をしていたときは、自分の意見を聞かれることが多かったんです。

 

「常盤さんはどうしたいですか?」「常盤さんは何がしたいですか?」って。私自身、自分の考えをしっかり打ち出して、ときには提案して。そうすることが主演の責任だと教えられてきたんです。

 

でも、映画に出るようになってからは、ちょっと変わって。映画には、監督という、絶対的な存在がいる。自分の意見を主張するよりも、監督が何を求めるのか。そこに意識が向くようになりました。

 

── では、まずドラマの話から伺わせてください。ドラマの現場では、何を「どうしたい?」と聞かれるんでしょうか?

 

常盤さん:

もう、聞いてくる方は全部ですね。

 

たとえば、台本に「ここで飲み物を飲む」と書いてあるとするじゃないですか。そうすると、「ここで飲み物を飲むのってどう思う?違和感ある?」とか「この役だと中身はコーヒーにする?紅茶にする?」とか。

 

脚本に書いてあってもその都度確認してくださる監督はたくさんいます。

 

── そこで、常盤さんが気づいたことをおっしゃると。

 

常盤さん:

もし違和感があれば、話し合いますね。

 

── ときには、常盤さんの意見と誰かの意見がぶつかることもあったりするんでしょうか?

 

常盤さん:

う〜ん、あったかもしれないですね。台本を読んで、「あれ?」と思ったら私も率直に伝えるし。

 

ただ、脚本家の先生が書いてくださったセリフを直すのって、結構大変なことなんですよ。

 

演出家やプロデューサーは、主演が言ったこととなれば、なるべくそれを叶えようとしてくれる。

 

でも、脚本家の先生の大切なセリフも守りたいだろうし。

 

どうしようもないからお互い説得しようとするんだけど、なかなかうまく噛み合わない。そんなことはよくありました。

 

── 相手が誰であろうと、意見はきちんと伝えていたと。

 

常盤さん:

自分の意見を言わないと、「ただ、やらされてる人」になっちゃうと思い込んでました。お芝居を生業として生きていきたいと思ったからこそ、そういう気負いはあったと思います。

 

── そういった意見の交わし合いは、当時のドラマの現場ではよくある光景だったんですか?

 

常盤さん:

もしかしたら、私は特にそうだったかもしれないですね。

 

昔から、海外の映画にも出ていたし、「自分がどうしたいか」って、海外ではすごく求められるんです。だから、海外でも日本でも、何かあればマネージャーさんではなく、直接私が監督やプロデューサーさんに伝えていました。 

監督の、あなたの脳内が見たい!

常盤貴子さん
自分がどうしたいかを大事にします。

 

── そうしてたくさんのドラマの経験を経て、舞台ではどのように気持ちが変化していったんでしょうか?

 

常盤さん:

ドラマの現場にいるなかで、途中から「私の意見って必要?」って、なんとなく思うようになっていたんです。

 

その頃に、ちょうど舞台演出家の夫と結婚して、近いタイミングで映画の大林宣彦監督ともお会いして。

 

夫については、日々の様子を見ているうちに「なんか、演出家って精神的にいろいろ大変だなぁ」って気づきました。

 

大林監督からは、監督の世界観を演じる楽しさ、監督の脳内を再現するような面白さを知りました。

 

自分の意見ではなくて、監督の脳内の一部になるというか。だから、その作品の要素の一部になることに徹する。小道具とか衣装とかと一緒で、作品のための一つの要素に徹することに楽しみを見出したんですね。

 

それからは、演出家や監督をサポートする意味合いでも現場に存在していたいなって思うようになりました。それは、すごく変わったことですね。

全てのタイミングが重なり、演じることの楽しさを実感

常盤貴子さん
監督の脳内を再現する面白さを知りました。

 

── 今までとは違う扉が開かれたと。

 

常盤さん:

全部、偶然なんですけどね。

 

寺山修司さん作の舞台に出たのも、大林監督と出会った同じようなタイミングで。寺山修司さんは、変化やハプニングさえアートにしてしまうという考え方。今まで自分の周りにはなかった世界観が、一気にドッと押し寄せてきたんです。

 

── すべてのタイミングが重なったんですね。

 

常盤さん:

そうだと思います。そこに気づく時期だったとしか言いようがないんですが。それに、20代で映画やドラマの経験があったからこそ、舞台に出た時に映像では見ることのできない景色を見れたんじゃないかと。

 

だからこそ、今もなお、演じることの楽しさを実感できたり、ワクワクしていられるんだろうと思います。

 

PROFILE 常盤貴子さん

1972年生まれ。神奈川県出身。1991年に女優デビュー。『愛していると言ってくれ』、『Beautiful Life』(ともにTBS)ほか、多数の主演ドラマあり。映画や舞台、CM、ナレーションなど活動は多岐にわたる。

取材・文/松永怜 撮影/坂脇卓也
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