ぼんやりする男の子
「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんに教えていただきます。

 

今回は、中高一貫校の「深海魚」について。一般的に進学先の中高一貫校で成績が落ち込んでしまう生徒のことを言いますが、富永さんは大変デリケートで予測不可能な問題だと話します。

分不相応な学校に進んだから深海魚になるのではない

中学受験界には「深海魚」という有名な言葉があります。

 

中高一貫校で成績が著しく落ち込み、浮上しない生徒のことを言います。進級基準を満たさない成績不振が長く続くと、学校に保護者が呼び出され、「このままでは高校に進めない/次の学年に進めないかも」と退学を選択肢に入れた面談になることも…。

 

実際に、進級できず退学になるケースはそれほど多くはありませんが、いったん成績が低迷すると、本人の気持ちも落ち込み、勉強はもちろん部活なども積極的にできなくなりがちです。そうなると、家族としても本当に心配になりますよね。

 

私は、「深海魚」になるのに入学時の成績は関係ないと思っています。

 

「実力以上の学校に入学したら、ついていけずに深海魚になる」と思われがちですが、そうではないパターンはたくさんあります。

 

安全校に入学して、やる気が出なくなった。努力せずに合格できたため、学習習慣がついていない。とてつもなくデキる同級生を見て打ちのめされた。小学校時代ずっとトップだったのに、そうではなくなって受け入れられない。勉強よりゲームにはまった。思春期で気持ちがこじれてしまった…。

 

特に思春期というのがやっかいです。この時期の子どもは保護者はもちろん周囲も驚くような変貌を遂げます。「深海魚」はそこに現れる一つの状況、だからこそ難しいと思っています。

受験勉強の目標は遠くに設定する

もし、「深海魚」予防策があるとしたら、受験勉強の段階から「目標を遠くに設定する」ことではないでしょうか。

 

中学では英語と数学という、努力が必要な科目が新しくはじまります。これらは、頭の良し悪しよりも、勉強へのやる気が成績を大きく左右します。やる気がないと、中学の勉強には対応できないので、「深海魚」になる可能性はあるでしょう。

 

とくに受験勉強の段階で「あの名門校に合格!」だけを目標にしてきたような子どもは、それがかなってもかなわなくても、その後の学習意欲の維持が難しい。

 

一方、その先の目標が見えていたら、進学した学校がどこであれ、やる気がなくなることはそうないはずです。「東大の法学部で法律を学ぶ」「医師になる」「企業でバリバリ働く」という夢は、別にトップ校でなくてもかなうのですから。

 

子どもはどうしても「名門校に受かりたい」「偏差値が少しでも高いところに受かるのが偉い」というマインドになりがちです。とくに中学受験ブームが過熱している地域はこの傾向が強くなりがちで、保護者の中にもそういったマインドに陥っている方はいるかもしれません。

 

なんのために中学受験に挑戦するのか。志望校のその先の人生を親子でみることを意識してください。これは保護者にしかできないことです。

 

「中学受験で受かるということと、その先の目的の実現はイコールではない」「中学受験で受かったからといって何も保障されてない」ということを常に言い続けるのもいいですね。

「深海魚かも」と思ったらまず学校に相談

晴れて合格、中学に入学。そして、わが子の成績表や行動を見て、「ひょっとしてうちの子、深海魚になってしまったかもしれない」とドキッとする…。

 

そんなときは、まず学校の先生に相談してください。そして事態の深刻さがどの程度なのかを把握しましょう。

 

保護者が「これは危ない」と思っても、たくさんの生徒を見ている学校の先生からしたらそれほどでもない、「成長の一過程にすぎない」ということはよくあります。

 

もちろん、学校の先生から見ても危なっかしい状況なら、何かしらの手を打つ必要があります。

 

対策は子ども一人ひとりで異なります。学校の指名補習でなんとかなることもあるし、家庭で塾や家庭教師の利用を考えたほうがいいこともある。そのあたりについてもしっかり相談するといいですね。

 

担任の先生が頼りにならないときは、部活の顧問など子どもが信頼している先生に聞いてみる。カウンセリングルームや保健室の先生に聞いてみる。

 

保護者が真剣に相談すれば多くの学校は応えてくれます。それでも冷たい学校なら保護者は腹をくくってその後の手立てを考えていくことになります。

 

保護者自身も、子どもの成績や気持ちが沈んだ原因を早く見つけることが必要です。勉強のやり方がわからないのか、コンプレックスで委縮しているのか、夢がないからなのか、甘えたいからなのか…。

 

成績のことを声高に責めるのではなく、本人が本当はどうしたいのか対話を重ねて解きほぐしていくことを心がけてください。結局のところ、本人がその気にならなければ、補習や個別指導でいくら強制的に勉強させても、頭に入っていきません。

 

反抗期になると、対話そのものが難しくなり、保護者も悩まれることでしょう。それでもとにかく、その子がその子らしく生きていける方法を、長い目で見ながら探してあげてください。
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どの子もなりうる「深海魚」。多くの場合は、目標を見失い、勉強へのモチベーションを持てないことで起こる現象です。

 

目標は「あの学校に合格」という短期的なものにせず、親子でその先を見据えることがたいせつです。

中学受験の正体バナー
監修/富永雄輔 取材・構成/鷺島鈴香 イラスト/サヌキナオヤ