それぞれのライフスタイルによって老後に必要な金額は変わりますが、老後にある程度まとまったお金が必要なのは誰もが同じ。「老後資金」について考えるときに最低限抑えておきたいポイントを、ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんに伺います。
「給与25%を老後資金」で生活が安定する訳
現在は人生100年時代と言われています。定年を65歳とすると、お給料がない期間が65歳〜100歳までの35年間もあります。この35年間の老後生活を豊かに送るためには、元気に働いているころから、どのような準備をしていくかが重要です。
一般的に、働いていてお給料のある22歳〜65歳の43年間が、お金を貯められる時期になります。
会社員だった人が65歳以降にもらえる公的年金は、その時に現役で働いている人のお給料の半分(50%)を1つの目安として支給されます。そのため、例えば現役時代のお給料の25%を貯蓄し、65歳以降にスライドさせれば、ざっくりと常に75%くらいの金額で暮らすことができる概算になります。貯められる時期の収入の25%を老後にスライドさせ、人生全体を75%にならすのです。
そうはいっても、常に給与の25%を貯蓄に回すのは、なかなか難しいかもしれません。実は人生には「3大貯め期」と呼ばれる、お金を貯めやすい時期があります。
1期は「独身時代」、2期は「結婚して子どもが生まれるまで」、3期は、「子どもが独立した後」です。一般的にはお金が貯めづらい子育て期の中でも、子どもが小・中学生の間はミドル貯め期と言えるかもしれません。他の時期に比べると、保護者に少し余裕が生まれ働く時間が増やせる可能性がありますし、公立の学校であれば支出もそこまで多くはありません。
逆に、子どもの保育料がかさむ3歳未満までの時期や、お金がかかる習い事や進学塾に通わせているとき、そして大学に通わせている間は、出費が多く貯めるのが難しい時期です。
たとえば「3大貯め期」には給与の30%、ミドル貯め期は10%、それ以外の時期には5%など、時期に合わせて貯蓄額を変えてみるのはどうでしょうか?トータルで25%にしようという気持ちで貯められれば良いと思います。
老後に必要な金額は人によって異なる
「老後に備えて夫婦で2,000万円は必要」などと言われることがあります。しかしこれは必ずしも正しいとは言えません。
たとえば夫婦それぞれがフルタイムの正社員で定年まで働いていれば、受給できる公的年金だけでもひと月あたり30万円近くになる可能性があります。そうであれば、公的年金の範囲内で生活のやりくりができ、老後に2,000万円も貯蓄は必要ないかもしれません。
しかし自営業者などが加入する国民年金だけの夫婦は、受給できる公的年金がひと月あたり10万円ほどになる場合も多いです。もしも夫婦で生活費に月25万円使いたい場合、公的年金が10万円だと差額は15万円。30年間差額を補填しようとすると単純計算だと5,400万円になります。もう少し贅沢をしたいとなると、6,000万円あっても足りないかもしれません。ほかにも持ち家かどうか、65歳以降も働くかどうか、節約が得意かどうかなどでも、老後に必要な金額は変わってきます。
そのため一概に、いくら必要というのは難しいです。先ほど述べたように常に給与の75%で暮らせるように、働いている間の「腹八分」や「腹七分」を意識するのが良いでしょう。
現状を把握するために「ねんきんネット」にアクセスを
今の私たちにできることのひとつが、日本年金機構の「ねんきんネット」にアクセスして現状を確認することです。皆さんの手元には年に一度、誕生月にこれまで支払ってきた年金の実績などが確認できる「ねんきん定期便」が送られてきています。「ねんきんネット」はそのインターネット版で、同じ内容をいつでも好きな時に、サイト内で確認することができます。さらに、このまま加入を続けた場合に将来受給できる年金の見込額や、働き方を変更した場合の見込額の変化なども試算できます。
貯蓄目標については長期でざっくりとした割合で計画を立てること、受給年金額については可能な範囲で正確な情報を収集しにいくこと。この2つを実践するだけでも老後資金の大枠の見通しが立ち、得られる安心感は大きくなります。月に5,000円からでも貯蓄を始めてみるのはどうでしょうか? 1年で6万円、10年で60万円と、小さな金額もトータルでは大きくなっていきます。まずは貯める習慣から身につけてみてください。
PROFILE 風呂内亜矢
取材・文/酒井明子