仕事、家事や育児に追われていると、“自分の時間”がどんどん失われていきますよね。「自分に余裕がない、そのように感じたら危険信号です」。そう話す心理カウンセラーの山根洋士さんに、慌ただしい日々を過ごすなかで注意したい、“自己喪失感”について聞きました。
急に涙が出たり、やる気が出ない人はSOSを
仕事や家事、育児など、すべてをこなしていると、あっという間に時間が過ぎていきます。すると、自分の時間がもてず、イライラしたり、落ち込んでしまったり、気持ちに余裕がなくなってしまいます。
「自分の時間は命と一緒。これがなくなるのは、危ない状況です。外的要因に時間をとられてばかりだと、何に対しても受け身の状況に。ついには、自己喪失感を抱いて、自分がどこにあるのか分からなくなってしまいます」
自己肯定感が低い人も気持ちが沈んでしまいますが、「どうしてこんなにダメなんだろう」と考えて“自分を責める”のが特徴です。しかし、自己喪失感をもつ人は、それよりも深刻な状況です。肯定するも何も、“自分がなくなってしまう”からです。
山根さんいわく、自分がなくなると、意識や記憶などの感覚を整理する能力が一時的に失われる解離状態になるそうです。
「自己喪失感を抱くと、なぜか涙があふれたり、突然やる気がなくなって部屋が散らかったり、起こるはずのない殺意が芽生えたり。部屋のどこかを、ボーッと見つめていることもあります。放っておくと、心の病を発症してしまう恐れも」
自己喪失感は病気の一歩手前の状態です。自分よりも他人を優先しすぎると、自分を見失い「自分はどうしたいのか」「自分は何をしているのか」理解できなくなってしまいます。
ぐっすり眠ることに自分の時間を当てるようにする
それでは、自分が分からなくなるほど時間に追われてしまったら、どうしたらいいのでしょうか?
「ぐっすり寝ることです。睡眠中に過ぎていく時間は誰にも邪魔されない自分だけの時間。よく眠ることで、自分の時間を存分に使うことができます」
睡眠が重要と言われても、子育てをしながらではまとまった睡眠をとるのは難しい。寝られそうなタイミングを見つけてこまめに寝るのも手ですが、子どもが小さいと目が離せない人もいますよね。
そういう場合は、近くに住む親に子どもを預けたり、自治体が行っている一時託児のサービスを利用したりして、時間をつくってみるのも手です。
「また、自己喪失感までいかなくても、ふだんは感じないけれど、余裕がないと自分や他人に対して否定的な気持ちが湧いてくるでしょう 。次のようなことに当てはまったら、気持ちに余裕をもてていない状態かもしれません」
□仕事でケアレスミスが多い
□食べ物の味が分からない
□昨日の昼食を覚えていない
□話しかけられたことに気づかず、スルーして注意される
□何をしても楽しくない
□一人になりたい気持ちが強い
□やる気が出ない
「でも、ムリに前向きな姿勢でいようとしないでください。ネガティブな状態からポジティブな状態へ強引に引っ張ろうとするとうまくいかず、新しい悩みが生まれます。だからそこは、できない自分やダメな自分を許してあげましょう」
忙しいからこそ、頑張りすぎない。たとえば、料理。毎日栄養を考えて献立を作らなくていけないと考えて、完璧を目指す人もいるのでは?ですが、たまにはお惣菜を買い足したり、出前をとったりする日があってもいいのです。こだわりを捨てて、完璧でない自分を受け入れれば、ゆとりができてくるはずです。
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仕事や家事、育児など、他人が関わってくるからこそ自分ではコントロールできない部分があるため、自分の時間をつくろうと言われてもハードルを感じてしまいますよね。まずは一人でなんとかしようとせず、親や自治体のサービスなど周囲にサポートしてもらえないか、調べるところから始めてみましょう。
PROFILE 山根洋士さん
文/廣瀬茉理