「働く女性の生きやすさにコミットする」というブランドミッションを掲げるCHANTO WEBでは、CHANTO生活総合研究所(CHANTO総研)として、働く女性を取り巻く状況に関する調査・分析をおこなってきました。
2020年に引き続き、新型コロナウイルスの影響が色濃かった2021年。2022年をより生きやすい社会に変えるために、私たちには何ができるのでしょうか。
働く人たちの声をもとにCHANTO総研が作成した年間白書の内容を解説していきます。
2021年を表す「10大キーワード」
CHANTO総研では、生活者945人に対して2021年の働き方や暮らしがどのように変わったのか、アンケート調査を実施。生活者とともにその変化を分析しました。
調査ではまず、2021年を表すキーワードについて質問。数あるなかからピックアップされたキーワードを昨年と比較した結果、一定の変化が見られました。
まずは「新型コロナウイルスの感染拡大長期化」により、「緊急事態宣言」の延長が相次ぎ、休業や外出自粛を余儀なくされたこと。その状況による「コロナ疲れ」や「コロナうつ」を挙げる人が多く見られました。閉塞感が続く状況下で、家事の負担軽減に大いに貢献する「テイクアウト」をピックアップする声も目立ちました。
1年以上続いた在宅勤務による「テレワーク疲れ」や「運動不足」を感じている人も多かったようです。運動不足からくる体調不良に苦しむ人も出ており、早期に解決する方法を模索する必要がありそうです。
一方で「勤務場所の多様化」を挙げる声もあり、働く場所を自由に選べる時代の到来を予感させます。
全試合無観客という異例の状況で開催された「東京オリンピック」もまた、2021年を語る際に欠かせないキーワードとなりました。
2021年「生きやすい社会」は実現された?
続いて、「2020年は誰もが生きやすい社会の実現に近づいたか」という質問に対し、「はい」と答えた人は24%、「いいえ」と答えた人は72%。昨年の数字と比較すると、どちらの数字も増加する結果となりました。
2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大により、暮らしに否応なく訪れた変化。2021年前半には状況がさらに悪化し、生活者の負担がますます大きくなったことで、適応できた人と適応が難しい人の「格差」を肌で感じる人が多かったと考えられます。
前向きな変化を感じた人もいるものの、24%という数字は決して多いとは言えません。年齢や性別、職種、居住地域、家族構成などにより影響の度合いは実にさまざま。個人では乗り越えられない格差も多々あり、社会全体で取り組むことが必要と言えるでしょう。
新型コロナウイルスの影響は、現在こそ小康状態を保っているものの、新たな変異株の脅威もあり、来年以降もさまざまな変化を柔軟に受け止めていく姿勢が大切になりそうです。
仕事面:「働き方の自由度」を求める声が高まった年
2021年の仕事の変化については、ポジティブな変化を感じた人が22%、ネガティブな変化を感じた人が38%、変化を感じていない人が34%となりました。ネガティブな変化を感じた人は8%減少、現状維持と答えた人が8%増加しています。
先行きが不透明ななか、大きなポジティブな変化は見られなかったものの、昨年より必要に迫られて動き出した「働き方の見直し」が、ネガティブな変化の減少につながったものと思われます。
それぞれの回答に対する主な理由は、ポジティブな変化があったと回答した人は「働き方の見直しにより仕事がスムーズになったこと」や、「通勤ストレスの軽減」などを挙げています。ネガティブな変化があったと回答した
人は、「収入の問題」のほか、「体制の変更等による仕事の増加やテレワークへの対応の遅れ」を指摘するケースも見られました。
働き方の変化には表と裏があり、置かれた立場によっては追い風にも向かい風にもなり得るものです。コロナ禍をきっかけとした「よりよい働き方の追求」に終わりはなく、粛々と継続されるべきと言えそうです。
企業努力による前向きな変化も
生活者の調査ではポジティブな変化を感じる声は22%と、多いとは言えない結果でした。その一方で、企業による「働き方改革」により、目を見張る変化も見られています。
働く場所や時間に関するポジティブな変化
今まで当たり前のように受け入れられてきた「週5出社前提の働き方」。コロナ禍が長引き、テレワークが普及するにつれ、「決められた場所で決められた時間まで働く」ことにこだわる必要がないと気づき、制度を見直す企業が増えつつあります。
たとえば週3日勤務でも“フリー正社員”として働ける「
」や、休みが取りにくいと思われがちな旅館業で週休3日制を導入した「
」の例。業務効率化を意識した社内改革を行うことで、今まで難しいとされていた自由度の高い働き方を実現させました。
また、働く場所を個人の需要に合わせて全国に拡大し、優秀なマンパワーの確保を可能にしたIT関連企業「
」の動きにも注目が集まっています。社員が働きたい場所で働くことで、その地域の企業や地元の人たちと横のつながりを広げていき、将来的に社会の課題解決にもつながることが期待されます。
とはいえ、テレワークの実施率自体に関して言うと、明らかに上昇したとは言えない状況です。専門家は、正規と非正規、東京と地方などで格差が目立ったと指摘。「テレワークかリアルか」の一択ではなく、 今後は「働き方の選択肢を増やしたい」という声がさらに増えていくと予想されます。
多様な働き方に関する変化
人によってライフステージや心身の状況はさまざまであり、子育て世帯だけでなく、介護が必要な家族がいる人、疾病や障がいを抱える人など、同じ条件で働くことが難しい場合もあります。
この状況を打破するための施策を率先して行う企業も増えており、どんな属性や個性を持つ人も納得がいくような働き方を支援する道筋が、少しずつ実現しつつあります。
たとえば、誰もが理由を問わず利用できる「
」の短時間正社員制度、就業や住居を提供するなどの手厚いサポートによって、ひとり親家庭を支援する「
」 、法定基準を大幅に上回る障がい者雇用に注力する「
」などはその好例です。
就職や転職に関する変化
ポジティブな変化として挙げられた「転職・副業の実現」に関連して、「学び直し」の大切さも再認識されています。
非正規雇用の女性の就労状況は引き続き、非常に厳しいものでした。女性だけでなく、男性ミドル層も含めた学び直しが大切と指摘されています。新しい職業に就くための学び直し、社内でのリスキリングの重要性が高まった
1年と言えそうです。
今後は、副業が徐々にデフォルト化し、1つのビジネスに縛られないキャリア形成が加速すると考えられます。また、年齢に関係なく学びを継続しキャリアアップしていくことが当然になっていくかもしれません。
未来につながる働き方の例としては、副業でも昇進・昇給が可能な「
」や、ミドルエイジ層の学び直しの支援プログラムを実施している「
」などが挙げられます。
働く制度に関する変化
来年から義務化される「男性育休義務化」にも注目が集まっています。今年は男性育休がデフォルト化しているとは言えない状況ですが、在宅勤務によって夫の育児参加の機会が増え、育休への心理的・物理的ハードルが下がってきていると予想されます。
売り上げ減覚悟での残業ゼロの取り組みが男性育休の取得増に役立ったという「
」や、育児休業の一部有給化で取得率を大幅アップさせた「
」、男性が妊婦体験を行う研修を充実させている「
」など、すでに男性育休100%を達成している企業も。それらのノウハウに学びつつ、企業風土や職場環境に合った男性育休の実現が望まれます。
家庭面:家族のための時間と自分の時間のバランスが課題
一方、2021年の家庭における変化に関しては、ポジティブな変化を感じた人が31%、ネガティブな変化を感じた人が21%、変化を感じていない人が43%となりました。2020年と比較し、ネガティブな変化を感じた人は8%増、変化を感じていない人が5%増加しています。
昨年同様、ステイホームが推奨される状況が続いたなか、家族間のコミュニケーションの増加やストレス解消の工夫が功を奏した家庭も一定数あったようです。
とはいえ、特に夏ごろは感染拡大の状況が深刻となり、緊急事態宣言の度重なる延長が人々の心に重くのしかかりました。家族間のトラブルやストレスを感じている人も依然として見受けられ、在宅勤務によって家事が増えたことで疲弊する人も。働く女性の自殺率が増加したことがんニュースとなりましたが、こうした働く女性を取り巻く状況が一因とも考えられます。
「ひとりの時間」を確保し、「ファミリーディスタンス」を意図的にキープすることは、働く女性のみならず、家族全員の心を守るために欠かせないことです。そのネックになりうる“家事・育児に対する完璧主義”はいったん手放すことが先決と言えるかもしれません。
夫婦の家事分担率の実態を調査したところ、全体に女性の負担が高いものの、夫婦で負担量が半々と答える人も一定数見られ、家事全般を一手に引き受けていると答える男性の割合も大きく伸びています。
テレワークが浸透して男性が家庭で過ごす時間が増え、家事時間が増えたことが大きく関係していると言えるでしょう。来年以降ますます家事時間の男女差の減少が促進されると予想されます。
今年の動きを踏まえて考える「未来に必要な働き方」
コロナ禍を経て、多くの人が気づき始めた「働くうえでの決まりごと」に関するムダ。特に、出社や対面の原則や紙ベースのデータ管理は、場合によってはオンラインや電子データでも十分だという共通認識が定着しつつあります。
白書では、こういった今年の状況を踏まえて、来年以降に必要になると予想される働き方を8つのキーワードを用いて解説しています。
まず、働きながら学び直しを継続してスキルアップしていく「学びと仕事のハイブリット化」。人生100年時代、学び直しなどの言葉も注目されるようになりました。正社員でも勤務日数を減らし、大学院に通いながら仕事をするという選択肢も。学びと仕事が並行していく社会になると思われます。
テレワークの普及に伴う「オンライン営業の活性化」も考えられます。営業職だけでなく、オンラインを活用した店舗運営なども増加。個人による起業の可能性などもさらに高まっていくでしょう。
そして、共働き夫婦の結束力を高め、企業のマンパワーをアップするカギとなる「男性育休のデフォルト化」。2022年4月から義務化され、男性の育休取得が当然になり、育児・家事が“自分ごと”に。共働き夫婦の結束力が強まることが期待されます。ただし、形骸的な制度にしないための企業の工夫が必要となるでしょう。
副業を通じての地方創生が期待される「ふるさとde副業」も話題を集めています。テレワークを活用した地方での「副業」案件も見られるようになり、収入を得ながらふるさとへの貢献が両立できるように。来年以降さらに動きが活発になることが予想されます。
また、どんな立場の人も自分らしく働き、時間ではなく成果で評価されるきっかけとなりうる「定年・転職、時短勤務の廃止」もポイントに。テレワークの拡大により、好きな場所で、好きな時間帯に、歳をとっても希望すれば働きたいだけ働ける時代が視野に入りつつあります。また、能力があっても労働時間が短い、残業ができないことを理由にキャリアアップが妨げられていた子育て世帯がより活躍できる社会になっていくでしょう。
ジェンダーギャップをはじめ、正規・非正規での格差が解消される「格差のない雇用」が実現する社会への期待も高まっています。「女性だから」「正規雇用でないから」といった理由から公平な雇用が守られない状況は、喫緊の課題です。2021年には中小企業にも同一労働、同一賃金が適用され、改善の兆しは見えています。賃金や待遇面でのハンデを是正し、誰もが気持ちよく働ける社会の実現が望まれます。
そして、働く環境の悪化に苦しむ人をなくすための「国や企業ぐるみのメンタルケア」がますます叫ばれるようになるでしょう。体だけでなく心の健康を守ることも、働きやすい社会には必要不可欠です。メンタルヘルス対策の理解促進はもちろん、早期にケアできる体制が確立されることが期待されます。
上記に関連して、「加速する企業の健康経営」も必須になるでしょう。出社を前提としない働き方で社員が健康を損ねないため、企業が社員の健康サポートにも注力。食事補助などを含め、福利厚生の見直しが行われていくことが期待されます。
働く女性の自殺者が増加しているというゆゆしき事態を食い止めるためにも、苦しい状況を抱える人を周囲がいち早く把握・理解し、多くの手で支えていく環境を整えることが火急の事案と言えそうです。
いま生活者が期待する「理想の社会」とは
最後に、「新しい暮らしの“理想の社会”」について質問しました。
やはり多かったのは、新型コロナウイルスのような脅威にさらされたことを教訓にした回答です。「危機に柔軟に対応できる社会」「自由にのびのび暮らせる社会」「不安や心のよどみがない社会」といった理想は、心身の安全が確保され、自分らしく自由に過ごせる。そんな“当たり前”を願う声のあらわれと思われます。
子育て中の世帯ならではの「どこに住んでも子育てがしやすい社会」という回答も、コロナ禍でさらに深刻化した育児の大変さを浮き彫りにしています。また、「多様性を認め合える社会」「偏見がなく誰もが過ごしやすい社会」といった、未来の働き方への展望に通じる回答も寄せられています。
さまざまな立場の生活者間の「格差」が問題視されるいま、まずは暮らしのなかで感じる「多様性」をフラットな感覚で捉え、当事者が気持ちよく暮らせるような地域ぐるみの工夫がポジティブな変化の第一歩になるかもしれません。
…
仕事においても家庭においても、昨年のパラダイムシフトの影響が色濃く残った2021年。来年は今年の課題を解決する動きが具体的に見えてくるでしょうか。CHANTO総研は今後も、調査と発信を続けていきます。
CHANTO総研白書2021は以下よりダウンロードしてご覧ください。
※調査方法 【対象者】・20〜59歳の有職の男女・全国 ・945サンプル 【調査方法】 インターネット調査 【実施時期】 2021年10月22日〜11月15日