10年後には社員の2人に1人が45歳以上──。バブル期の大量採用などによって社員の年齢構成に偏りがある大和証券は、これから急増するとみられるベテラン層の活躍支援に戦略的に取り組んでいます。

 

年齢を重ねるとスキルアップへの意欲は衰えがちですが、同社のベテラン社員向けのビジネス研修には多くの社員が自発的に参加しています。どのような工夫があるのか。同社人事部次長の高島正行さんに詳しくうかがいました。

大和証券人事部の高島さん

研修受講で再雇用後の給与が数割増しも

── ベテラン社員向けの研修制度があると聞きました。

 

高島さん:

「ASP研修」というものを設けています。45歳以上の社員が対象で、「介護と仕事を両立するためのヒント」「ビジネスに活かす論語」「数値分析のスキル」「コーチング・労務管理のスキル」「MBAマネジメント」「PCスキル」など40講座を用意しています。すべてパソコンで受講するeラーニング形式で、1講座を修了するごとに、ポイントがもらえます。

 

2015年4月にスタートして、21年3月末までに累計で約2万回講座を実施しました。この間の対象者は約2000人です。人によって受講状況に偏りはありますが、単純計算でこれまでに1人10講座を受講したことになります。

 

── ポイントをためるとどうなるのでしょうか?

 

高島さん:

ポイントの獲得状況が、55歳以降の処遇に影響してきます。研修で得たポイントのほか、45歳以降に取得した資格や勤務実績もポイント化して、それらの合計が一定基準をクリアすると、53歳以降に「ライセンス認定」される仕組みです。ライセンス認定を受けると、55歳以降の処遇が優遇されるというメリットがあります。

 

会社の制度として、基本的には55歳になると総合職からキャリア職への移行(いわゆる役職定年)が適用され、給与も下がります。しかしライセンス認定されれば、キャリア職への移行が保留され、処遇が優遇されます。60歳以降の再雇用では、給与が数割上乗せされます。

 

── 研修開始から6年ほどたちます。運用していく中で改善や工夫したことはありますか?

 

高島さん:

研修を始めた当初は、どれでも好きな講座を受ければポイントをもらえて、ライセンス認定に近づくという、自由な形でやっていました。ただ、運用していくうちに、学んだことを実際の業務で活かせているのか、という課題意識が出てきました。

 

そこで今年4月に制度の見直しを行いました。まず会社として、ベテラン社員に活躍してもらいたい配置候補先を7つ決め、それぞれに必要な研修を明示しました。社員はあらかじめ自分が希望する配置先を決めて、それに必要な研修を受けてポイントを獲得していくことになります。ポイントや勤務実績の基準が一定以上をクリアして、さらに、実際に希望の配置先に配属されたらライセンス認定されるという仕組みに改めました。

 

会社としてはベテランに担当してもらいたい配属先ですし、本人としても勉強をしてそこに行けばライセンス認定されて給与があがる。双方にメリットがあります。

45歳から学習意欲が低下する、にどう対処するか

── そもそも、ベテラン社員の活躍推進に力を入れるようになったのはなぜですか?

 

高島さん:

全社員1万人の年齢構成を見ると、45歳以上のベテラン層は現在約3000人です。これが10年後には約4500人になります。さらに60歳以上は今は全体の2%、140人にすぎませんが、これが10年後には全体の15%を占め、1200人まで急増すると予想されています。つまり、ベテラン層がどんどん増えていくわけです。そう考えると、ベテラン層が意欲的に学び続け、活躍することは会社の成長に不可欠です。

 

ところが、社内アンケートをとってみると、若いころは一生懸命自己研鑽していた人でも、45歳くらいからどんどん学習意欲が下がっていくことが分かりました。世の中の移り変わりは激しいので、会社としてはベテランになっても勉強し続けてほしいというのが本音ですが、実態としてはそうなっていない。そのような課題意識から、ベテラン層への活躍推進に取り組むようになったんです。

 

研修制度を設けてから、研修を受けるだけでなく、ベテラン層でも新たに資格を取得する人が増えてきています。自発的に勉強する人が増えてきているということだと思うので、ベテラン層の意欲を刺激するという点からも、やる意味はあるな、と感じています。

 

 

ベテラン社員の活躍支援は、制度を用意しても参加率が伸びにくいという声も聞きます。今回取材した大和証券のケースは、当事者にとって参加する意味が明確で、会社にも直接的なメリットがある、よく練られた制度だと思いました。

取材・文・撮影/木村彩