パチンコ店のサウンドに引き込まれる女性

配偶者が過ちをおかしたとき、選択肢は離婚一択でしょうか。相手を受け入れ、夫婦でがんばっていこうと寄り添う人もいます。我慢を強いる話ではありません。過ちの背景を知り、配偶者のつらさを理解し、一緒に歩んでいこうと思う夫婦もいるようです。

夫にベッタリの義母が家に入り込んできて

結婚して13年、10歳と9歳の子がいるユミカさん(42歳・仮名=以下同)。29歳のとき、5歳年上の男性と結婚しました。彼とは友だちの紹介で出会ったそうです。

 

「まじめで性格も穏やかな人だったので、いい家庭が作れそうと思ったんです。でも、結婚するまで、彼と母親との関係をよく知らなかったのは失敗でした」

 

結婚後は彼の実家のすぐ近くにある賃貸マンションで暮らし始めました。ところが義母が、毎日のようにやって来るのです。

 

「共働きだったんですが、買い物をして帰ると、冷蔵庫に義母が作ったおかずが並べられていたり、キッチンで『あの子はおでんが好きだから』と煮ていたり。洗濯や掃除についても文句も言われました。そもそも、どうして夫がマンションの鍵を渡したのか不思議でした。夫と義母、どちらも親離れ・子離れしていなかったんですよね

 

それはユミカさんが妊娠してからも続きました。つわりに耐えて仕事をし、ようやく彼女が帰宅すると。義母は待っていたかのように「妊娠は病気じゃないのよ。あなた、甘えすぎてない?」と言い出す始末。

 

「このときはさすがに私も『お義母さんが帰ってくれたら、つわりも治ります!』って、叫んでしまいました。精神的に不安定すぎるわと、義母は夫に告げ口したようです」

 

義両親は夫婦仲が悪かったそうです。だから義母の頼みの綱はひとり息子でした。結婚したからといって、義母は息子を手放するつもりはなかったのでしょう。

子育てに疲れ、駅前に響く音色に導かれた誘惑

年子を出産したあと、ユミカさんは体調を崩してやむなく退職しました。手伝いに来る義母にますますストレスを感じる日々。地域の保育ママ制度を利用したこともありましたが、義母は泣いて抗議してきました。

 

「私がいるのにどうして保育ママなんて頼むの!みっともないって。夫に話しても聞いてくれなかった。子どもたちの世話も大変で、いつも何かに追われている気持ちで。

 

上の子が小学校に入り、下の子を幼稚園に送った帰り道、ぼんやりと駅前を歩いていました。パチンコ屋の自動ドアが開いて、盛大な音楽が聞こえてきたら—— 。誘い込まれるように、入ってしまいました」

 

その日は2時間で打ち止めになるほどの球が出ました。ビギナーズラックでしょう。ユミカさんは、それまで知らなかった高揚感を覚えました。

 

「翌日から、子どもを幼稚園に送ると、すぐパチンコ屋に行くようになりました。負けても勝っても、店の中だけは別世界。義母に干渉されない自由を得た気持ちになりました」

 

子どものお迎えがあるので、時間的な抑制は効いていました。でもギャンブルは結局、損をするもの。独身時代に作ったクレジットカードのキャッシング機能を使ってお金を借りるユミカさん。儲かったら返せばいい…”と思いながら。

 

「でも、徐々に返済できなくって、別のカードでキャッシングする自転車操業。損を取り戻したい気持ちが勝つんですね。下の子が小学校に入ると、見送ってから夕方までパチンコ屋にいましたね。最後は怪しい金融会社にまで手を出してしまい

離婚を懇願するが、夫の意外な返答に救われる

1000万円近くまで膨れ上がった借金、もう返せない。どこも貸してくれない。そうなって初めて、彼女は夫に泣きながら話しました。

 

「土下座で謝って『離婚して!』と。夫はショックで声も出ませんでした。3日ほど無言の生活が続いたあと、夫が『自己破産の手もある、リセットして新しい気持ちでやり直そう』と。家を顧みず、義母との関係も知らん顔していた自分にも非がある、と思ったようです。だから『追い詰めたのは自分かもしれない』って」

 

ギャンブルでは自己破産が認められないケースもありますが、ユミカさんの場合はなんとか認めてもらえました。心療内科にかかり、自分の問題点にも気づきました。

 

「夫が思いやってくれるから、私も前を向こうと思っています。義母は何も知りませんが、夫が『うちのことにはあまり口を挟まないでほしい。ユミカはいい妻で、いい母親なんだよ』と、私の目の前で言ってくれたんです。あのときは号泣しました」

 

夫婦の信頼関係がしっかり結ばれた瞬間だったのでしょう。ユミカさんはこの春からパートで仕事ができるまでになり、気持ちも回復したそうです。

パチンコ店のサウンドに引き込まれる女性
夫婦関係に口出ししないよう夫が義母に抗議する
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。