関東を中心に展開する大手回転寿司チェーン「すし銚子丸」。職人気質で長時間労働は当たり前──。「限界まで働き、売り上げを稼ぐ」という体質だった同社は、2017年から働き方改革に乗り出し、離職者が大幅に減少するなどの成果を上げています。

 

同社は、なぜホワイト企業化に乗り出したのか。そして、その方法とは?改革を先導する堀地元・常務取締役に話をうかがいました。

                  堀地常務

「100人採用したら100人やめる」

── 働き方改革に取り組む前の様子を教えてください。

 

堀地さん:

改革前は、創業者の社長が会社を率いていました。昭和の働き方で、朝から晩まで働くのが美徳。遅くまで残っていると褒められる、という雰囲気でした。

 

社員の約9割は店舗に配属されていますが、年間1日も休まずに店を開けていたので、繁忙期の残業時間はとにかく働けるところまで働いて、そこから出てきた利益をみんなで分配するというやり方でした。長時間労働が問題視されて、労働基準監督署から呼び出しを受けたこともあります。

 

でも時代が変わり、働く側も労働環境をよく見るようになって、採用がむずかしくなってきて危機感を覚えました。忙しすぎて余裕がないから、社内の雰囲気もよくなくて。やっと採用しても、「100人採用したら100人やめる」というくらい、離職率も高かったんです。

 

2014年にカリスマと呼ばれた先代が引退し、16年に亡くなりました。それまでは先代の影に隠れて仕事をしてきたような気がしますが、次の100年を見据えたときに、本当に悩みました。

 

導き出した結論は「働いている人の幸せを第一に考えたい」。17年から働き方改革をはじめました。働いている人を幸せにしないと、お客様を幸せにすることはできないと気づき、「働いている人に愛情を持とう」と決意したんです。

 

── 「長い時間働くのがえらい」という雰囲気を変えるのは大変だったのではないですか?

 

堀地さん:

そうですね。実は社員を休ませることにいちばん苦労しました。

 

まず本部で「勤怠チーム」をつくり、毎朝全店舗のシフト状況を見るようにしました。シフトどおりに働き、休憩はとれているのか、シフト外の時間に働いていないかを一人ずつチェックします。

 

何かあれば店のマネージャーや店長に連絡をして、「昨日休憩とれていないですよ、どうしましたか?」「昨日は労働時間を2時間オーバーしているんで、今日はそのぶん早く帰れますか?」とか伝えるようにしました。

 

最初は「休憩時間をとれと言われてもお店が忙しいから無理だ」と、店が抵抗していました。働くのが美学になっていたんですよね。

 

どうすれば効果的か考えて、「そんなに休みがとりにくいなら、店を閉めちゃおう」と、盆正月の繁忙期が終わったタイミングで、店を閉める日を設けることにしました。

 

全店舗のうち半分くらい閉めると、一日に1500万円くらいの売り上げが飛びますが、「それでも店を閉めるからみんな休んでください」ということを繰り返すうちに、「本部は本気なんだ」と気づいてくれたようです。徐々に現場の店と本部の意識の差が縮まってきて、働きやすい環境ができてきているように思います。

 

社員の離職率は2016年5月期が12.6%だったのですが、20年5月期は7.5%と、一ケタにまで減らすことができました。ワークライフバランスが整った職場づくりに成果を上げていると評価され、千葉労働局長の表敬訪問も受けました。以前、労働基準監督署から呼び出しを受けていたことを考えると大きな変化です。

改革後も堅調な売り上げ

── 改革をはじめてからも売り上げは堅調です。コロナ禍で飲食店の廃業が相次ぐ中で、一時は売り上げが下がったものの、持ち直しています。どういうことなのでしょうか?

 

堀地さん:

休業日を設けた分、週末の売り上げが増えたりして、トータルでは売り上げが下がりませんでした。そもそも休業日は、繁忙期のあとの売り上げが下がるタイミングにしました。計算してみて気づいたのですが、売り上げが良くない日に、人を使って店を開けるのは非効率的だったりするんです。

 

以前は「採算が合うか合わないか」より、「店を一日も休まずに開ける」というのが一つのルールみたいになっていたのですが、店を閉めて、みんなで休んだほうが効率的かもしれないと考えました。やってみたらその通りだったから、以来、そのやり方を続けています。

 

── 休日が増えて、社員の給与はどうなりましたか?

 

堀地さん:

以前は、月給に70時間相当の「固定時間外手当」を含んでいましたが、2019年5月から45時間に改定しました。

 

その前から、「固定時間外手当」の時間数の短縮には取り組んできていましたが、古くからいる社員の中には固定時間外手当の時間数を減らした分だけ給料が減ってしまう、と不信感を抱く人もいました。

 

そこで19年の改定では、固定時間外手当を70時間相当から45時間相当に減らしても、給与の支給総額は変えない方針を打ち出し、社員も理解してくれました。基本給の大幅アップという形になりましたが、大切な人財への投資と割り切り、生産性アップで乗りきることにしたのです。

 

翌年には、固定時間外手当の時間数を30時間まで減らしています。残業時間が30時間を超えたら、別に残業代として支払います。

 

── 飲食業界は低賃金というイメージを払拭したい思いもあるのでしょうか?

 

堀地さん:

「寿司店や飲食業界に就職したい」など業種で選んでいた昔と違って、今はみんなシビアに仕事を検討していると感じます。そういう意味で業種の壁が低くなっているので、全業界を見渡して平均給与はどうなのかをよく調べながら、改定を進めています。

 

 

昭和の働き方の象徴とも言えた寿司店は、持続可能なホワイト企業に生まれ変わるべく大改革を実行しました。本部の大ナタに現場もこたえたからこそ、なし遂げられたのだと思います。次回は、ワークライフバランスと利益の両立に向けた取り組みを聞きます。

取材・文/木村彩 写真提供/銚子丸