共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
前回は、育児や介護以外の申請理由でも時短勤務ができる株式会社リコー独自の「ショートワーク制度」についてご紹介しました。
今回は、男性の育児休暇取得を推進するリコーの取り組みについて、引き続き人事の長瀬さん、鶴井さん、広報の佐橋さんに伺います。
PROFILE
男性の育休取得率が上がった2つの要因
──前回の記事「育児・介護だけを特別にしないリコーの『ショートワーク制度』」で、御社では子育て支援を行う一方で、男性社員にも積極的に育児参加するよう働きかけているとのことでしたが、具体的にはどのような取り組みをされてきたのでしょうか。
長瀬さん:
以前から男性の育休取得を積極的に働きかけています。2000年代には男性の育休取得者は年に数人程度しかいなかったのですが、近年は常時200人を超える状況で、取得率はほぼ100%になっています。
取得期間は、2020年度実績で20日間程度とやはり女性社員よりは短い期間になっていますが、この期間も徐々にのびてきています。社内では2週間以上取ることを推奨していて、育児参加する男性がかなり増えてきているのを感じています。
佐橋さん:
私もそれは感じていて、先日仕事で技術部門に行ったのですが、リーダーから「毎月、男性社員がリレーのように代わる代わる育休を取っている」という話を聞きました。
──御社では男性も育休を取るのが当たり前になってきているのですね。育休取得率が上がった要因となったものはなんですか?
長瀬さん:
最初の転機になったのは、育児休業の一部有給化です。2010年4月には育休のうち最初の5日間、翌年の2011年7月には10日間に有給を拡大しました。そのあたりから男性でも取得する人が増えてきましたね。
この一部有給化によって、2009年には2人しかいなかった男性利用者が2011年には27人にまで増えています。その後も順調に増加し、2015年には利用者は106人、利用率44.5%まで上がりました。
第2の転機もこの頃で、マネージャーに対して、まだ育休を取得していないメンバーがいる場合は、育休取得の計画を出してもらうようにお願いをするという取り組みを始めました。弊社では子どもが2歳になるまで育休が取れるので、業務上すぐには難しいという場合でも2歳になるまでの間で取得してもらえるよう、計画を立ててもらっています。
この取組みを始めてから、ほぼ100%に近いくらいの取得率になりました。
──ほぼ100%はすごいですね。とても順調に成果が上がったように見えますが、男性の育休取得について、社内から反対意見などは出ませんでしたか?
長瀬さん:
最初はマネージャーからの反発が結構ありました。やはりマネージャーとしてはメンバーが休みに入ると業務上、厳しくなるので。その分、人を補充してくれるのか、今のテーマはどうするのかといった意見が出ました。しかし2歳までの間で2週間、難しければ1週間でも取れるようにと説得して、調整してもらえるようになりました。
もちろん、本人が希望しない場合は無理強いしませんが、上司に気をつかって育休を取りたいのになかなか言い出せないというケースもあるので、なるべくマネージャーから働きかけるということを目的に取り組んでいます。
鶴井さん:
弊社の場合、昔ながらの大企業病のようなところがまだ少しだけ残っている部分があって、若い人が上司に言われたからやるとか、上司に気をつかってなかなかできないというようなところがあるんです。年々変わってきてはいますが、育休も取りたいけどなかなか言い出せないということも現状としてはあったりします。
そういう気のつかい方はしなくても済むように、やはりマネージャーから変わっていかないといけないと思っています。ある意味、上司に忖度してしまうというのは男性の方が多いのかもしれません。
リモートワークなども、社長や役員がコロナ前から積極的に利用し始めたことで、みんなで実践していこうというマインドが醸成されたところがあります。
──会社のトップやマネージャーから働きかけてもらえると、部下は取得しやすくなりますよね。長瀬さんも育休を取得されたと聞きました。
長瀬さん:
私の場合は子どもが3人いて共働きでもあるので、3回とも育休を取りました。第1子のときは2週間だけだったのですが、第2子・3子のときは上の子もいて里帰りもしなかったので、それぞれ2か月と3か月取りました。
3人目のときは当然育児もしましたが、だいぶ子育てにも慣れていたので、料理教室に通って3食作るのを日課とするなど、家事のスキルアップにも時間を使いました。妻からは「ありがたや」と言われました(笑)。
個人的には、男性も2週間といわず1か月くらいは育休を取って、どっぷり育児に浸るのがいいと感じています。やはり数日など短い期間だけでは子育てのほんの一部しかわからなくて、本当の大変さがあまりわからないまま、自己満足で終わるような感じになってしまうこともあると思うんです。家族とずっと一緒に過ごすことで、子育てへの考え方も変わっていくのではないかと思います。
働き方変革を加速させるきっかけとなったこと
──人事制度は長瀬さんのように活用する人がいて初めて意味が生まれるものだと思うので、それを具体的な形で実践されているのはすごいことだと感じました。
長瀬さん:
ここ3〜4年で弊社の働き方変革が加速したのですが、その大きなきっかけとなったのは、2017年に現在の社長である山下が就任したことです。そのタイミングで働き方変革に力を入れようということで、社長直轄の組織でプロジェクトができて、鶴井さんも抜擢されていました。社長から「これまでの常識や前例にとらわれることなく、働き方を変えていこう」というポジティブなメッセージが出されたことで、だいぶ追い風になってきたという気がしました。
鶴井さん:
やはり人事部門で制度や仕組みを作るだけでは厳しくて、男性育休に限らず、リモートワークやコアタイムなしのフレックス勤務などかなり進んだというのは、会社として目指す働き方についてトップからの指針があり、それを発信し続けている影響が大きいと思います。
また、仕事だけでなくてプライベートも充実させないと社員の働きがいが上がらないということもわかってきたので、いろいろな手を打ってきた1つがこうした人事制度だとも思っています。1人ひとりが自律的に働けるようになることが前提にあって、人事制度やITツールの開発、マネージャーの教育、評価制度、すべてがつながっていると思います。
時間がかかるところではあると思いますが、こうした取り組みによって、社員の意識も徐々に変わっていくのではないでしょうか。
…
人事制度は作っただけでは意味がない。必要な人に利用してもらえるように、積極的に取り組むリコーの姿勢から学ぶことが多いと感じました。この取材で男性育休取得率を上げるヒントになるお話が聞けました。
来年から男性の育休に関する法律の改正が施行されることで、さらに多くの男性が育休を取得し、より子育てしやすい世の中になることを期待したいと思います。
取材・文/田川志乃