これからの変化の激しい社会、主体性ある子どもに育っていって欲しいものです。

 

教育研究家で全国で教職員研修やコンサルティングを手がける妹尾昌俊さんに子どもの主体性を育成するために学校と家庭はどうしたらいいのか聞きました。

「内申書に書くぞ」で育つ「忖度した主体性」

── 学校教育で主体性は育っていっていますか?

 

妹尾さん:

「主体性」とは何を意味しているのか、突き詰める必要があります。苅谷剛彦教授(オックスフォード大学)は文科省、学校が育てようとしているのは「忖度する主体性」ではないか、とおっしゃっていて、言い得て妙です。

 

子どもたちは、内申点や先生からの評価を気にして、大人が期待している行動をとってしまいがちです。それが「忖度する主体性」です。

 

── なぜそうなったのでしょう。

 

妹尾さん:

中学以降、進路に関わってくるからでしょう。たまに勘違いした先生が「内申書に響くぞ」と脅しているケースもあります。

 

こういったケースの逆を行っているのが、広島県の平川理恵教育長です。

 

県立高校入試で、生徒が先生の評価を気にしてイエスマンになっているとし、内申書から先生の評価を記入する欄を取り除きました。

 

代わりに、生徒がエントリーシートのように自分のPRを書くことに変えました。

 

──  面白いですね。

 

妹尾さん:

今までそれをやっている自治体はありませんでしたから。学校教育の当たり前をすべて否定してはいないが、見直しが必要なところはいろいろあると思います。

 

── 「忖度する主体性」へ目を向けると同時に、本当の主体性を育むにはどういった改革が必要でしょうか。

 

妹尾さん:

好奇心、問題意識を高めることを大切にして欲しいと思います。

 

たとえば、持続可能な開発目標、SDGs(エス・ディー・ジーズ)を参照しつつ、関連することを調べて、子どもたちなりに興味、関心を育てていくのも良いと思います。

 

教科の知識を覚えるだけではなく、リアルな社会とつながる時間が必要だと思います。大人が主体性をことさら強調しなくなって、「この問題をなんとかしたい」などの関心が芽生えると、子どもたちは勝手に主体的になっていきますよ。

 

例えば修学旅行。遊園地で思い出づくりもいいが、それだけでは主体性や探究心は身に付きません。

 

問題や関心を高める修学旅行にして、沖縄に行くならば戦争の悲惨さを子どもたちが自分で調べたり、基地問題を自分で考えたりする。

 

自分で考え行動することで、主体的になります。社会を知ることは勉強のやる気にも繋がっていくと思います。

 

── 家庭でも主体性が身につくような社会につながる課題を一緒に考えていきたいですね。

 

 PROFILE 妹尾昌俊

教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表。徳島県出身。京都大学大学院法学研究科を修了後、野村総合研究所を経て、2016年から独立。文科省での講演のほか、全国各地で教職員研修やコンサルティングを行う。著書に「教師崩壊」「教師と学校の失敗学」など。

取材・文/天野佳代子