収入はあるのに家族の生活の質を上げようとしない、あげく妻を傷つけるような言葉を投げつける。そんな夫が少なくないようです。「離婚ができればラクなのに…」と、嘆く妻たちは切実な悩みを抱えています。
賞味期限切れのヨーグルトが原因で…
「うちは生活費が5万円なんです」と、疲れたような表情でそう話すのは、高野波留子さん(39歳・仮名=以下同)です。結婚して10年、8歳の長男と6歳の長女がいます。親戚の紹介で、5歳年上の彼と見合いのような形で結婚しました。
「30歳を目前にしていたし、彼は実直な印象だったので結婚するにはいい相手かなと。親戚によれば収入も安定しているというので。当時、私は職場の人間関係に悩んでいて、仕事を辞めたかったんです」
夫も妻が専業主婦であることを望んでいたので、波留子さんにとっては渡りに船。ところが結婚してしばらくたつと、夫が本性をあらわにするようになりました。
「あるとき夫が冷蔵庫の中から、賞味期限切れのヨーグルトや少し萎びた野菜を見つけ出したんです。『自分のお金で買ってないから、こういうムダなことをするんだよね』と決めつけられてショックでした。
たしかに私が悪いけど、ヨーグルトだって、野菜だって食べられないわけじゃない。しかも、そのとき私は体調を崩して食べきれないものが出てしまった。でも夫は『いいわけしなくていいよ』と冷たい口調でした」
当初、生活費として渡されていたのは7万円でしたが、それを機に5万円に減らされました。夫の父親が所有していた一戸建てに住んでいたので住宅ローンはかかりません。光熱費等は夫の口座から引かれますから、食費と生活雑貨だけなら5万円で充分だろうというのが夫の言い分でした。
「なのに夕食のおかずの品数には口うるさい。冷凍食品など使おうものなら嫌みを言われます。そのうち私は妊娠してつわりがひどくなったんですが、吐き気を我慢しながら夕食を作ってもねぎらいの言葉すらなくて…」
そして子どもがふたり生まれてからも、5万円の生活費は変わりませんでした。
食費や進学費用は両親からのサポートでやりくり
「さすがに一家4人分の生活費が5万円ではたりません。洗剤やトイレットペーパーなども買わなければいけないし、子どもはどんどん大きくなるから洋服や靴も必要。独身時代の私の貯金も取り崩しましたが、このままではいけないと思い、夫に3万円ほどプラスしてもらえないか提案しました。でも聞く耳をもってもらえなかった」
波留子さんの実家は地方の兼業農家。それとなく親にねだってお米を送ってもらうようにしました。さらに夫の実家に泣きついてみましたが、義母は「5万円あればなんとかなるでしょ」と、にべもない言い方をされたそうです。それでも、子どもが幼稚園や小学校に入ったときは必要なものを買ってはくれました。
「義母は自分の息子がケチなのを知っているんですよ。だけど息子が悪いとは言えない。言いたくないんでしょう。孫はかわいいから、たまに『洋服でも買って』と少しお金はくれます」
夫は子どもをかわいいと思っているのかどうか、波留子さんにはよくわからないそうです。特にかわいがったり、子どもと一緒に出かけることもないのですが、「頭がよければ学費は惜しまない」とは言っているそう。
「頭がよければという条件が嫌だなあと思います。夫は誰でもわかる有名な国立大学を出ていますから、私に対してもつねに上から目線。『自分の子だから頭はいいはずだけど、おまえのDNAも受け継いでいるからなあ』と笑ったことがあるんです。本人は冗談のつもりかもしれませんが、傷つきました」
そんな夫は外では社交的で明るく、リーダーシップのある人間と思われているそう。同期の中で出世もは最速。
「挫折を知らないんでしょうね。人の痛みには鈍感だと思います。上の子が小学校に入ったとき、このままだと経済的にやっていけないので働きたいと言ったんです。でも『子どもが義務教育のうちはダメ』って。だったら『もっと生活費を』と粘ったんですが、それはスルーされました」
収入を得ようとする妻が許せない夫
趣味の洋裁でワンピースやブラウスを作ってネットで売ったこともありました。しかし、夫にバレてやめさせられました。彼女が収入を得たり、生きがいを見つけると夫から横やりが入るのです。
「家をきれいにしてご飯を作り、子どもを育てる。それが私の役割。私の気持ちなんて考えようともしない。夫と心を通わせようとは思わなくなりましたが、子どもたちに不自由な思いはさせたくない。本当なら本人がやりたいことは何でもさせてやりたいけど、今は上の子のスイミングだけです」
最近は波留子さんの親戚から野菜なども届くようになり、なんとか食材だけは確保していますが、「先のことを考えると不安でたまらない」と彼女は言います。ただ、離婚すれば、生活水準は下がるのが目に見えているので離婚はできないと諦めています。
「洋服なんて何年も買っていません」。これは妹からのもらいものですと、彼女は体に合わない大きなワンピースの裾を揺らしながら去っていきました。