いきものがかり水野良樹

幅広い世代から支持を集めるポップミュージックでトップを走り続けるいきものがかり。

 

多くの楽曲を生み出してきた水野さんに、今回は「人を巻き込むチーム力」の秘訣を伺います。

「怒鳴らない」を意識する理由

── バンドを始める最初の時点から、音楽シーンのメッカとして知られる下北沢や高円寺などを目指すのではなく、地元の知り合いの力を借りて活動を広めていったそうですね。

 

水野さん: 

神奈川の中でも、横浜のような都会の地区ではなく、少し田舎の出身だった高校生3人組だったので、音楽の世界に飛び込むにあたって、いろんな人の力を借りないと前には進めないと思ったんです。だから、まずは地元でファンを増やしたいと考えました。

 

もちろんその状況は今も続いています。

 

人の力を借りるために気を付けたことと言えば、簡単な話で恐縮ですけど、例えば「怒鳴らない」とかです。

 

── 確かに大事です。水野さんでも、つい怒りたくなることもあった?

いきものがかり水野良樹

水野さん:

人間ですから、もちろんあります。

 

だけど、ライブの現場って怒鳴り声が響くことが当たり前だった時代もある分、スタッフの方には「そういうことはやめましょう」と言ってます。関わる人みんなが、気持ちよく仕事を終えて帰って頂きたいんですね。

 

それぞれがプロの仕事をするのは大事ですよ。ただアリーナクラスの会場のライブともなると、常に100人単位のスタッフの方が携わっているので、長く続けているうちに多くの方と顔見知りになってくるんです。

 

そして、ライブが出来なくなる今のコロナ禍のような事態に陥れば、その方たちも苦境に立たされる。

 

そんなリスクを負うこともわかっていて、この世界に飛び込んできた方たちなんです。だからこそ、おこがましいかもしれないけど、いきものがかりのライブに参加することで、その人たちが自分の人生をキャリアアップさせる何らかの物語を感じて頂きたいんですね。

 

「いきものがかりのライブで初めて現場を任されました」という若いスタッフさんが、5年後10年後にさらに上にいって、僕たちの現場で働いたことにストーリーを感じてくださるというありがたいことも起こるんですよ。

 

そうなると、もう僕らだけの物語ではなくなっている。チケットが売れることは確かに大事だけど、それさえクリアできればいいのかというと、決してそうじゃない。

 

僕らのライブが気持ちよく成功すればいいんじゃなく、終わった後に、関わってくださった方たちが「あのツアー、あんなことがあったね」と思い出してくださるものにしたいと常に思ってます。

他人の表現方法を知ることで仕事にインパクトが生まれる

── 4月に出版された新刊『うた/ことばラボ 「うた」と「ことば」についての14の対話(ぴあMOOK)』では、様々なジャンルのアーティストとの対談を通じて、それぞれの作品の魅力など抽象的な概念を、わかりやすい言葉に分解されて説明されているところが印象的です。

いきものがかり水野良樹

水野さん: 

ありがとうございます。

 

僕は、いきものがかりという現場しか知らなかった時代が長いので、他のアーティストの作り方に触れ合うことをすごく大事にしているんです。

 

楽曲提供をするときには、自分とは全然違うものを主軸にするので、世の中にはいろんな考え方があるんだという当たり前のことに気付くことが多い。そういう作業を繰り返すたび、自分がいかに狭い世界にいたのか知らされるんですね。

 

今回の本でも、普段なら会わないようなジャンルの方、突っ込んだ話を聞く機会もない先輩方など、いろんな人の表現方法に触れました。

 

こうやって、他人の表現の工夫を聞くことって、音楽に関わらず、どんな仕事をしている方でも応用できることだと思うので、ぜひ読んでほしいですね。どうすれば自分の伝えたいことが人に伝わるか。インパクトを作れるのか ── 様々な世代の方がヒントを喋ってくださってます。

「自分のために聞く」が意外と大事

── 自分とはまったく世代の異なる方、畑の違う方などとコミュニケーションをしていく上で心掛けていることはありますか。

 

水野さん:

僕は本当に人付き合いが苦手なんですけど、自分には出来ないことやっていたり、知らないことを知っている方たちとお話しする以上、世代や性別は関係なく、リスペクトすることは絶対に忘れちゃいけないと思いますね。

 

あとは変な言い方になるかもしれませんが、「自分のために聞く」ことが意外と大事なんじゃないかな。

 

結局、自分が作り手である以上、どんなお話を聞きながらも、自分の作品と照らし合わせて考えちゃうんですね。だから、相手を持ち上げようなんて変なサービス精神を出さず、「自分はこういうことで悩んでるんだけど」と伝えるほうが実は誠実だったりするんです。

いきものがかり水野良樹

── どんな相手であっても「自分はこうしたいんだ」とストレートに伝えたほうが、コミュニケーションは円滑になる。

 

水野さん:

そう思います。「僕、こんなこだわりを持っているんだけど…」と腹を割って伝えてしまえば、「水野さんはそういう人なんだ」「逆に私は、こんなこだわりを持ってやっています」と、相手も受け入れて下さることが多い。

 

吉澤嘉代子さんとの回なんか、ゲストである吉澤さんより僕の方ばかり喋ってますからね(笑)。でも、こういうこともあっていいと思うんです。

 

人付き合いを苦手だと思う人は、何よりもまず自分を開示することが、最大のコミュニケーションの上達法なんじゃないかというのが、僕なりの結論かもしれないです。

 

PROFILE  水野良樹さん

いきものがかり水野良樹プロフ1
1982年生まれ。神奈川県出身。1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。ソングライターとしても、様々なアーティストへ楽曲提供を行う。2019年、実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ、さらに活動の場を広げる。新刊『うた/ことばラボ 「うた」と「ことば」についての14の対話 (ぴあMOOK)』(ぴあ)では、表現者たちとの誠実な対話によって、彼らの創作の核心に迫った。

文/井上佳子 写真/坂脇卓也