門監督によるイラスト

劇場版『映画おしりたんてい シリアーティ』(公開中)で監督を務めている門由利子さん。本作の制作も「スケジュールとの戦いでした」としみじみ語る門監督に、アニメーション業界を目指したきっかけから、ハードなスケジュールを乗り越える支えになっていることやこれからの働き方、そして将来の夢まで教えていただきました。

「好き!」を思い出しアニメーションの世界へ

── アニメーションを作りたい、監督になりたいと思ったきっかけを教えてください。

 

門監督:

小さい頃から妖怪が大好きで、特にハマったのは『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメ第3期でした。ストーリーが原作に忠実で、そこにアニメならではの表現がプラスされておもしろくなっています。怖すぎない明るめの鬼太郎を観て、「おもしろい」と思ったのがアニメをやりたいと思った最初のきっかけです。

 

── 『ゲゲゲの鬼太郎』を作りたいという子どもの頃の夢を叶えるべく、アニメーション制作の世界へまっしぐらに突き進んだのでしょうか?職業として意識したのはいつ頃でしたか?

 

門監督:

アニメを作りたいと思ってはいたものの、絵の勉強も何もせずに大人になってしまいまして(笑)。普通に設備関係の会社に就職したのですが、ちょうどその頃『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメ第4期が始まって。そういえば、私、アニメを作りたかったんだって思い出しちゃったんです。そして2年ほどOLをやった後東映アニメーション研究所という養成所に入所して、今に至るという感じです。

 

── エンタメ業界でもない世界というのは意外でした。OLを2年ということは、割と早めの転職だったのですね。

 

門監督:

20代半ばでした。「アニメを作りたかった」と思い出さなければ、OLとして仕事を続けていたかもしれません。

アニメーション監督になるため必要なこと

門監督は大の鳥好き!

── アニメーション監督になるために必要なのはどんなことだと思いますか?

 

門監督:

いつも思うのは、好きじゃないとできないということ。本当に手間のかかる作業が多くて、好きな気持ちがないとつらいと感じてしまうと思います。好きな気持ちを持っていても、嫌になることもありますけれど(笑)。アニメ作りは細かい作業の連続です。実際の作業は私よりもアニメーターさんのほうがはるかに大変だと思います。

 

例えば、一つのカットを作るのためにキャラクターを少しずつ動かした絵をたくさん描いて、そのひとつひとつに番号を振って、1秒を24コマに割ったタイムシートにタイミングを記入していく。それがTVアニメなら300カット分くらいはあるので、気の遠くなる作業です。みんなよくやってるな、と感心しちゃいます。

 

── アニメーション監督になるためにやってきたこと、やっておけばよかったと思うことはありますか?

 

門監督:

私がアニメーションの世界を志したのは20代半ば。それまでは絵の勉強を一切してこなかったので、いまだにあまり絵が描けないんです。もっと絵の勉強をしておけばよかったなと常々思っています。

 

── 絵が得意でなくてもアニメーション監督にはなれますか?

 

門監督:

もちろん描けるほうがいいとは思っています。でも、大事なことはアニメーターさんにやりたいことを伝えられることです。このシーンの場所はどこなのか、誰がいるのか、どういう動きをしているのか、芝居の内容がしっかり伝われば、なんとかなります。アニメーターさんはそれを上手に絵にしてくださるので、本当にありがたいです。そのイメージを伝えるうえで、言葉よりも絵で描いたほうが伝わりやすいと思っています。

 

── 絵に代わる伝える言葉、伝える術を持っていれば、仕事上は問題ないわけですね。

 

門監督:

そうですね。ただ、私はあまりコミュ力が高くないので、苦労はしています。

 

── どのように伝えているのですか?

 

門監督:

大体、擬音語になってしまってます。ここでドーンとなってバーンってなったら、ふわっとして…、みたいに。それで形にしていただけるので、周りの方に助けられていると感謝する毎日です(笑)。

 

今回の現場も、優秀なスタッフが集まっていて、本当にありがたかったです。すごくプロフェッショナルなのに、優しい方ばかりで穏やかな現場だったので、終わりたくないという気持ちになりました。映画が出来上がってホッとしていますが、ちょっと寂しさも感じています。

子どもの反応も参考に

門監督のお仕事アイテム

── 作品を作るうえで、門監督がこだわっていることを教えてください。

 

門監督:

テンポとリズム感にはすごくこだわっています。間の取り方や緩急のリズムに関しては、観ている人が気持ちよく思えるようにと心がけていますね。できているかどうかは分からないけれど(笑)、常に意識しながら制作しています。本であれば自分のペースで読めるけれど、アニメーションは作る側でペースやタイミングを押しつけているようなもの。だからこそ、なるべく観る人が「気持ちいい」と感じてもらうことが大切だと思っています。

 

── 門監督の仕事に欠かせないアイテムを教えてください。

 

門監督:

今は、iPadが必需品です。少し前までは絵コンテを紙で描いていましたが、今はもうiPadが手放せません。私のように絵が描けない人間にはとてもありがたいアイテムです。娘にポーズをとってもらい写真に撮って、それをトレスしたりもできてしまうので。

 

── 仕事をする姿をお子さんに見せているのですね。どんな反応をされていますか?

 

門監督:

コロナ禍で休校が多かった頃は、自宅でコンテを描いていたのでその姿は見ています。「ママの仕事どう思う?」と訊いたときに「なんか、大変そう」くらいのテンションの言葉が返ってきて。「私もやりたい!」みたいな反応ではなかったです。でも、私がやっている作品は、すごくマイナーなものまで友達におすすめしてくれたりもするので、ありがたいです。

 

── 宣伝担当のようで頼もしいですね。作品の感想とか、コメントしてくれそうな印象です。

 

門監督:

わりと笑って観てくれることが多いです。厳しいコメントはないけれど、ツッコミを入れながら観ている様子を参考にすることはあります。「ここがおもしろいのか」と、子どものツボを知ることができるので助かっています。

 

── アニメーション制作はハードな現場と言われています。スケジュールが大変というお話もありましたが、ハードな現場、スケジュールを乗り越えるうえで支えになっていることはありますか?

 

門監督:

仕事の現場ではスタッフに支えられています。プライベートでは家族に癒やされています。周りの人に支えられて生きています(笑)。あとは文鳥とキンカチョウが私の癒やしです。最初に飼ったのは小学3年生のとき。小学校の卒業文集にも鳥のことを書いていたくらい大好きでした。結婚してしばらくは飼っていなかったのですが、娘が鳥に興味を持つようになったのをきっかけにまた飼い始めました。

 

実は、鳥が好きすぎて娘の名前には「鳥」を入れたくらいなんです。娘ができたら「鳥」の入った名前にしようと決めていました。もし男の子だったら、どんな名前をつけていたんだろうと思いますが、娘だったので、夢見ていた名前をつけています。

 

── 門監督の鳥好きの度合いが分かるエピソードです(笑)。門監督が思う文鳥の魅力を教えてください!

 

門監督:

とにかく見た目が美しいところです。羽がつやつやしていて陶器のように綺麗で、ずっと観ていられます。小さいのに相手に勝てるつもりでいる気の強さも大好きです。怒りん坊なところもかわいらしくてたまらないです。私は怒れないタイプなので、ちょっとうらやましく感じているのかもしれません。

 

── 文鳥、もしくは鳥がテーマの作品を作りたいという思いはありますか?

 

門監督:

鳥が活躍するアニメがあったら、ぜひ、作りたいです。あとはやっぱり大好きな『ゲゲゲの鬼太郎』は、いつかまたやりたいと思っています。

 

鳥に囲まれて暮らすのが夢なのだそう

── アニメ、『ゲゲゲの鬼太郎』、文鳥。お話を伺っていると一度愛したものは長く愛し続けるタイプですか?

 

門監督:

そうかもしれません。私、けっこうしつこいので(笑)。

 

── ブレないのが素敵です。ちなみにライフプランについて考えることはありますか?

 

門監督:

細かいプランを立てるタイプではないのですが。オファーがある限りはアニメを作り続けたいです。仕事がある限り、仕事は続けたいという気持ちでいます。40代になって、だんだん体力も落ちてきたし、反応も鈍くなってはいますが、使いものになるうちは働きたいです。

 

長く続けるために、仕事をやりすぎないよう余裕を持ったペースは心がけています。家事が苦手なので、仕事を詰め込みすぎるとどうしても家のことが疎かになってしまいます。そうならないように、自分のキャパを超えない程度で仕事するようにしています。

 

引退したら鳥に囲まれて暮らしたいですね。夢はキンカチョウのブリーダーになることです。

 

PROFILE 門由利子さん

アニメーション監督。東映アニメーション研究所入所を経て、東映アニメーションへ入社。『デジモンアドベンチャー02 前編 デジモンハリケーン上陸!! 後編 超絶進化!!黄金のデジメンタル』(02)、『デジモンテイマーズ 暴走デジモン特急』(02)、『デジモンフロンティア 古代デジモン復活!!』(02)などで助監督を務め、「おしりたんてい」シリーズの劇場版4作目、初の長編作『映画おしりたんてい シリアーティ』にて監督デビューを果たす。大の鳥好き。妖怪好き。