共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

女性の働きやすさに関する満足度調査では常に上位にランクインし、2016年には「厚生労働大臣の認定(えるぼし‐認定段階3)」、また2017年には「女性が輝く先進企業2017」の「内閣総理大臣表彰」を受賞するなど、その取り組みが高く評価されている株式会社髙島屋。具体的な施策について、人事部ダイバーシティ推進室長の三田理恵さんにお話を伺いました。

高島屋日本橋本店の外観
1831年創業の老舗百貨店。東京・日本橋にある「日本橋髙島屋」本館の外観。趣のある建物は国の重要文化財に指定されている。(写真提供/株式会社髙島屋)

お客さまに豊かな暮らしを提案するために、まずは従業員が安心して働ける職場づくりを

── 小売業は休みづらいという印象がありますが、早くから育児・介護支援に向けたさまざまな勤務制度を取り入れ、よりフレキシブルに働ける環境づくりに力を入れていらっしゃいます。このような取り組みを可能にした企業風土についてお聞かせください。

 

三田さん(髙島屋):

弊社の経営理念である「いつも、人から」のもと、誠実な企業活動を通じて、お客さまをはじめ、地域社会や取引先、従業員など、取り巻く人々すべてを大切にしながら社会に貢献することは、私たちの使命であると考えています。お客さまに豊かな暮らしを提案するためにも、まずはすべての従業員が働きがいを感じながら、安心して働ける職場づくりが不可欠です。

人事部ダイバーシティ推進室室長・三田理恵さん
人事部ダイバーシティ推進室の室長を務める三田理恵さん。

── 男女を問わず、全員が活躍できる企業を目指して、女性の活躍を推進する取り組みに力を入れていると伺いました。具体的にどのようなことをされていますか?

 

三田さん(髙島屋):

弊社では「人と企業の双方の成長」を目指しています。そのために、多様な価値観や生活背景をもつ人材の能力が最大限に発揮できる環境を整備すべく、ダイバーシティを推進してきました。採用や配置、昇進については性別に関係なく、本人の意欲や能力、今後のキャリアビジョンを考慮し、適材適所を最優先しています。採用・給与・昇進・職務・配置・定年などはすべて男女同一条件です。

 

── 男女同一条件で働ける企業は、日本ではまだまだ少ない印象があります。

 

三田さん(髙島屋):

弊社のような百貨店は、お客さまの8割、従業員の7割が女性ですので、女性の能力や感性を引き出して仕事につなげていくことは、企業としての成長に不可欠ですし、重要な経営戦略であると考えています。そのため、育児や介護など、これまで女性を中心に、働く上で生じてきていた時間的制約をフォローし、男性の育児参加を促進するなど、ワークライフバランスへの取り組みを積極的に進めています。

日本橋高島屋内の売り場
日本橋髙島屋店内。百貨店の性質上、お客様の8割、従業員の7割を女性が占める。 

「仕事と家庭の両立」を目指したフレキシブルな人事制度

── 従業員が抱えるさまざまな問題や状況にきめ細かく対応できるよう、柔軟な働き方を導入されているとのことですが、具体的にはどのような制度があるのでしょう?

 

三田さん(髙島屋):

小売業という特性上、シフトを組んで店舗の営業時間をカバーすることが不可欠です。育児や介護など、さまざまなライフステージにおいて生じる「仕事がしたくてもできない状態」を少しでも取り除き、それぞれが能力を発揮できる環境づくりを実現するためには、仕事と家庭の両立を支援することが重要な課題です。

 

そこで弊社では、人事制度の整備を通じて、仕事と家庭の両立が可能な環境づくりを進めてきました。特に子どもを持つ親が子育てをしながら仕事を続けていくための制度を従業員の声を聴きながら導入し、進化させています。

日本橋高島屋内の社員用休憩スペース
健康快活であることが明るい売り場づくりにつながるという観点から、休憩スペースなどの充実にも注力。本社ビル内にある休憩スペースにはベンダーも完備され、リラックスムードも満点。従業員同士のコミュニケーションの場として欠かせない存在となっている。

── 育児・介護に関する制度だけでも9パターンあるんですね。他社にはないユニークな制度があれば教えてください。

 

三田さん(髙島屋):

まずは、「育児勤務制度」ですね。売り場での勤務には早番や遅番というシフト勤務が伴うケースが多いです。従来の育児勤務制度では、早番のみの勤務が取得できるのは子どもが小学校3年生まででした。それ以降は遅番も取得しなければなりませんが、遅番だと帰宅が遅くなってしまうという理由から、子どもが4年生になると辞めてしまう方もいました。

 

そこで、子どもが中学校に進学するまでは、フルタイム勤務でありながらシフトを早番に固定し、月4回は遅番にも入ってもらい、徐々に通常の勤務体制に戻していけるような内容に改定しました。

 

── 確かに小学校高学年のお子さんを持つ親御さんにとっては、預け先が確保できないという問題は仕事を続けるうえで大きな足かせになりますよね。制約がありながらも活躍したい、自分らしく働きたいという方にとって、柔軟なシフト体制は後押しになりそうです。

 

三田さん(髙島屋):

そうですね。私自身も育児休職を2度取得し、復職後は時短勤務とフルタイム勤務を掛け合わせることで、なんとか乗り越えることができました。自分だけが早く帰ることへの罪悪感はありましたが、一方で勤務中は仕事の質量を上げることを常に意識し、他のメンバーに助けてもらいながらも、成果を出すことに意識を向けることで、仕事へのモチベーションを持続できるようになりました。

 

── なるほど。子どもを育てながら仕事を続けていくうえでネックとなる勤務制度に目を向け、きめ細かくケアしていくことで、ぐんと働きやすくなりますね。ほかにも注目すべき制度はありますか?

 

三田さん(髙島屋):

「スクールイベント休暇」や「再雇用制度」があります。「スクールイベント休暇」は子どもの学校行事に参加するための休暇制度で、年間2日まで取得できます。また、「再雇用制度」は、結婚や出産、育児、介護、配偶者の転勤などを理由に退職した方を、退職後10年以内であれば優先的に再雇用できる制度です。

 

── それはユニークですね。確かに勤務内容を熟知したベテランの方を優先的に再雇用することで優秀な人材が確保でき、企業の成長にもつながりそうです。こうした様々な制度を整えてきたことで、どのような成果がでているのでしょうか?

 

三田さん(髙島屋):

はい。1991年時点での女性の平均勤続年数は約6年でしたが、両立支援制度を充実させてからは伸び続け、今では約25年となりました。今後も意見交換会などを通して従業員の声に耳を傾けながら、制約がありながらも働きたいという方を支援できるよう、随時制度を見直していきたいと考えています。

 

── ちなみに男性で育児休暇を取得される方はどのくらいいらっしゃるのでしょう?

 

三田さん(髙島屋):

ここ数年確実に増えていて、2020年度は目標の男性育児休職取得率100%をクリアすることができました。子育ては女性だけの問題ではありませんから、男性が変わらなければ世の中が変わっていきません。社会課題のひとつとして、今後は男性の家庭への参画にもいっそう力を入れて取り組んでいきたいと思っています。

… これからの企業の持続的な成長にはワークライフバランス支援が必要不可欠と謳う株式会社髙島屋。ボランティアや副業に関する制度などもいち早く取り入れ、幅広い社会活動や個々の自律的成長を目的とした活動を積極的に支援しています。「人」に重きを置いた職場づくりへの取り組みは、今後、企業の明暗を分ける新しい指標となりそうです。

取材・文/梶 謡子 撮影/masaco