李闘士男監督『私はいったい、何と闘っているのか』(公開中)で、主人公伊澤春男を演じている安田顕さん。一見平凡な中年男なのに、人を惹きつける魅力に溢れる春男のかっこよさにちなみ、安田さんが憧れたヒーロー話を伺いました。
初代タイガーマスクに憧れてやっていたトレーニングとは?
── いわゆる“カッコいい”キャラクターではないのに、カッコいいと思える春男ですが、安田さんが子どものころになりたかったヒーロー像を教えてください。
安田さん:
今年で48歳になるのですが、小学生のころ「ワールドプロレスリング」の大ファンで。毎週金曜日がとにかく楽しみでした。初代タイガーマスクは僕にとってのヒーローです。「タイガーマスクのようになりたい」とドキドキしながら、テレビにかじりついていました。なれないのは分かっていたけれど、少しでも近づこうと「ダイビング・ヘッドバット」という技を身につけるべく、昼休みや放課後は、机の上にランドセルを置いて、ずっと頭を打ちつけていました。頭を硬くするトレーニングをしていたんです(笑)。
── リアルなヒーロー像となると?
安田さん:
やっぱり父ですね。なかなかなれない、近づけてもいないかな?自分の人生をしっかり歩んできた人で、どんな出来事が起きても自分なりに乗り越えて、我々家族を幸せにしてくれました。そういう芯の強さに憧れます。
── 憧れが強いからこそ、近づけていないという自己評価なのでは?
安田さん:
そうかもしれません。近づいたと自信をもって言えるのは、年齢くらいですね(笑)。嫌なところは似てしまうもので、短気でせっかちなところはそっくりです。
── 喜怒哀楽サプリメントムービーというキャッチコピーにちなみ、安田さんにとってのサプリメント的存在、アイテムなどを教えてください。
安田さん:
亀田史郎さんのYouTubeチャンネルです。ステイホームをきっかけに観始めたのですが、今では毎日観ないと落ち着かないくらいハマっています。それまで、ほとんどそういった動画は観なかったのですが、すっかり習慣化しています。
役者として「最高の瞬間!」と感じるのはどんなとき?
── CHANTO WEB読者には30代以上の働く女性が多いのですが、安田さんの30代はどのような感じでした?
安田さん:
30代はとにかく必死でした。自分の経験などを活かしてキャリアを重ねつつ、後進にも何か伝えていかなければいけない時期のはずですが、僕は、北海道から東京へ主戦場を移した時期と重なって。
例えていうなら、一度、中身をしっかり溜めた器を全部ひっくり返して、もう一回溜め直さなければいけない状態だったので、無我夢中でした。場所が変わることで、自分の中のノウハウは通じないことも多かったし、自分より若い世代ができていることが自分にはできなかったりするので、とにかく必死。
すでに家庭を持っていたのですが、離れて暮らしていたので、がんばらなくてはいけない状況でもありました。もちろん、まったく別の世界に飛び込んだわけではないので、ゼロからスタートするわけでもない。だけど、土俵が変わったことで、その土俵でちゃんと相撲の取れる人になるために、自分なりにがんばっていた。僕の30代はそんな感じです。
── 落ち込むことはありましたか?
安田さん:
もちろんありました。でも、やっぱり「行くしかない」という気持ちのほうが強かったから、落ち込んでいる暇がなかったというのが正しいかもしれません。
── 30代はかなりエネルギッシュに過ごした感じでしょうか?
安田さん:
そうですね。つねに「こんちきしょう」という気持ちでした。隣の芝生は青く見えることばかりでしたが、負けたくない気持ちがとても強かったのは自分にとって大きかったと思います。とにかく余裕がなくて自分のことで精一杯だったので、真っ直ぐに突っ走る、そんな感じでした。
── 50代に向けて考えるキャリアやライフプランはありますか?
安田さん:
求められていたいです。役者は定年がない仕事だから、自分で辞めようと決めれば辞められます。「自分で進退が決められていいね」なんて言われるけれど、求められなければ続けることもできません。シビアな世界です、退職金もないですし(笑)
── 求められるために心がけていることはありますか?
安田さん:
かっかしないこと。感謝の気持ちを持って、健康に過ごそうと思っています。
── 役者をやっていて、言われてうれしい言葉を教えてください!
安田さん:
作品への感想など、うれしい言葉はいっぱいあるけれど、役者としては「はいカット、OK」です(笑)。それも監督の満足が伝わってくるちょっとためた感じの「OK」ってやつですね。「オーーーッケーッ!」みたいな心からのOKが伝わってくる感じ(笑)、役者としては最高の瞬間です。
PROFILE 安田顕 / 俳優
1973年生まれ、北海道出身。地元・北海道の大学在学中に演劇を始め、森崎博之、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真と共に演劇ユニット「TEAM NACS」を結成。舞台、テレビドラマ、映画、CMなどで幅広く活躍中。主な出演作はドラマ『下町ロケット』、『正義のセ』、『なつぞら』『らせんの迷宮~DNA科学捜査~』など。映画は『龍三と七人の子分たち』、『ビリギャル』、『ザ・ファブル』『ホテルローヤル』など。主演作に『俳優 亀岡拓次』、『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』、『愛しのアイリーン』などがある。