前回の記事『

「正社員、フルタイム、大都市圏、男性」が「普通」という理不尽さ

』では、「正社員、フルタイム、大都市圏、男性」であることが「普通」で、「普通以外」の働き方を選択する人たちはフラットに評価されていないという、今の世の中の現状をお伝えしました。

 

今回は、企業がフラットに評価するために必要なこととは、そして私たちが今後キャリアを築いていくために必要なこととはなんなのか。引き続き、株式会社キャスターの取締役COO・石倉秀明さんに伺いました。  

「ジョブ型雇用」を導入すれば、正当に評価されるのか

──前回の記事で、今の日本企業の多くは、能力や成果に関係のないことで評価が決まることがあるという現状を伺いました。昨今、役割と求める成果を定義する『ジョブ型雇用』を導入する企業が増えていますが、ジョブ型雇用であれば「普通以外」の人たちも正当に評価されるようになると思いますか?

 

石倉さん:

そもそもジョブ型雇用は1960年代のアメリカで広がった働き方です。今も人種差別は問題になったりしていますが、当時のアメリカは、人種差別によって白人は有利に評価され、白人以外は仕事に就けなかったり、給与などが不利になるなどが当たり前でした。そこで、人種や出自ではなく、役割を決めてその成果で評価するジョブ型雇用が生まれました。これによって差別をなくし、組織に多様性をもたらすために生まれたのです。

 

日本の企業もジョブ型雇用を導入することで、時短勤務や地方勤務、性別、雇用形態などの理由で不当に給与が低いとか、キャリアとしてあまり選択肢がないという人も正当に評価されるようになり、キャリアも広がると思います。そして、会社に多様性が生まれると思います。

ジョブ型雇用が導入されることによって、いわゆる「普通」というだけで高い給与をもらっている人は不利になることはあります。しかし、正しく運用されるのであれば、働く人のレベルに合わせた評価になる、適正値になるということなので、多くの人にとってプラスになるのではないでしょうか。

 

──ジョブ型雇用では管理職が明確な目標設定をすることが不可欠ですね。

 

石倉さん:

そうですね、ジョブ型に限りませんが、管理職は部下の能力や役割、どこまでチャレンジしたいのかなどに合わせて、ちゃんと目標設定をすること、そして、あとで計測可能な目標にしてあげることが必要です。

 

つまり、管理職は管理職としての仕事をきちんとやればいいということです。しかし実際はその能力がないのに管理職をしているということもよくあります。これは結構根深い問題だと思っています。

 

例えば、5年目の人が別のチームに異動になったから、次は4年目の人がマネージャーになるなどという安易な決め方では、向き不向きもあるので難しいのではないかと思います。適正な人材がいなければ、そのチームを廃止して隣のチームと統合するなど、柔軟な考え方も必要です。

 

その会社におけるマネジメントの役割や必要な能力、そしてどういう能力開発をしていけばできるようになるのか、それぞれの会社が真剣に考える必要があります。

 

──ジョブ型雇用では優秀な人はいいと思いますけど、なかなか成果を出せない人にとっては給料も下がってしまうなど、働くのがしんどくなりそうなイメージがあります。

 

石倉さん:

そもそも雇用制度で守られていますから、法律上、大幅に給料を下げることはできません。今の給料から一気に20%下げるというのも現実的には難しいことなんです。なので、そんなに不安にならずに、チャレンジしながら納得できるように働けばいいと思います。

 

もちろん自ら学んだり、変化していくことが大事だといわれている中で、学ばない人、変化できない人の年収が伸びないのは、ある意味仕方がないところもあります。でも、仮にA社で成果を出せなかったからといって、B社でも出せないとは限りません。

 

もし年収を上げたいだけであれば、ビジネスモデル上、利益率が高いとか、労働分配率が高い、成長しているという条件で会社を選べばいいと思います。もちろん、本人の興味ややりたいこととの兼ね合いもあるので一概には言えませんが。

 

個人的には、業績が伸びない会社にずっといるよりも、伸び続けている会社に移り続けていくほうがいいと思っています。なぜなら伸びている会社はポジションがどんどん増えていくので、人が足りないんです。また、そういう会社にはチャンスもたくさんあります。伸びない会社は、今いる人が辞めない限りポジションが増えないので、チャンスは限定的であるケースが見受けられます。

 

──転職回数が多いと転職しにくくなるという話も聞きます。

 

石倉さん:

正直、一般的に見て転職回数が多いと採用されにくいという現実はあります。でも、個人的にはまったく気になりません。もちろん、悪いことをして辞めた場合などは別ですが。同じように、現在フリーランスだから採用しないと思ったこともありません。

 

今の世の中、経歴が一般的なレールに乗っていることが大事になってしまっているように感じます。結局、扱いやすい人とか、長く働いてくれそうな人が欲しいんだと思うんですよね。でも本当に大事なのは、その会社で求めているポジションや役割があって、目の前にいる人がその能力や経験を満たしているかということだけです。

 

現に、1年くらいで会社を転々としていた人が、当社では長く続いているというケースもあります。結局、その人にとって居心地が良ければ長く働けるということなんです。

 

職場や会社は、それ以上でもそれ以下でもありません。ましてや家族でもありません。仕事は目的があって、それを成し遂げるために集まっている集団なので、そういう場でしかない。それなのに、働く人たちも、経営者も、会社というものを重く捉えすぎているような気がするんですよね。

 

世の中にはいろんな考え、価値観の人がいるわけで、それがどうして会社となると認められないのかって疑問に思います。いろんな価値観の人がいても、共存して会社の役割を果たせばいいのではないでしょうか。会社によってそんな簡単に人の価値観が固定されることはないと思います。

 

ですから、副業を認めることなどについても、経営者がその人の人生を背負っているわけではないので、本人がやりたければやればいいのです。それが会社にとってプラスになるとかマイナスになるというのも関係なくて、会社としてはただその人が求める成果をきちんと出していれば評価すればいいと思います。

目の前のことを全力で頑張ることで次のチャンスにつながる

──世の中、コロナのこともあって先のことを考えると不安に思ったりもしますが、今後、キャリアを築く上で、ご著書『会社には行かない』に書かれていた「遠くを見ずに足元を見る、目線を下げる」というメッセージが重要だと感じました。

 

石倉さん:

今は、人生100年時代ともいわれますが、企業も変化を求められているように、個人も変化に対応しながらキャリアチェンジしていくことが求められる時代です。

 

変化が少ない時代であれば、将来のことを見通して取り組むことができるかもしれませんが、今はそうもいきません。3年後のことだってわからないし、今年の初めに新型コロナウイルスが来るとわかっていた人なんて誰もいませんからね。

 

ですから、「遠くを見ずに足元を見る、目線を下げる」ということが大事なのではないかと思うのです。予想できないものを考えても答えなどわからないし、あまり意味はありません。

 

もちろん、リモートワークが減ることはないだろうとか、日本の人口が増えることはなさそうとか大きな方向性は予想できます。それでも、それが自分の生活にどう影響するのかなんてよくわからないですよね。

 

なので、その時その時で求められていること、目の前にあることで成果を出せるように、全力で頑張ったらいいんじゃないかと思います。それを繰り返すことの方が大事です。何か会社で新たに任せようと思ったとき、今成果を出している人に任せようと思うじゃないですか。足元のことを頑張っているとチャンスはくるんですよね。

 

 

先が見えない世の中だからこそ、企業も、働く人たちも、それぞれが変化に柔軟に対応しながら生きていくことが求められます。だからといってあれこれ不安に思うよりも、今、目の前にあることを全力で頑張ることが、結果として次のチャンスにつながるのかもしれません。

 

PROFILE 石倉秀明さん

株式会社キャスター取締役COO。2005年、株式会社リクルートHRマーケティングに入社。2009年に当時5名の株式会社リブセンスに転職し、入社から3年半で東証マザーズ上場に貢献。その後、DeNAにて営業責任者、新規事業、採用担当を経て個人事業主として独立。2016年10月、株式会社キャスター取締役COOに就任。著書に『コミュ力なんていらないー人間関係がラクになる空気を読まない仕事術』『会社には行かないー6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』がある。

 

取材・文/田川志乃