共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ(J&J)では、企業理念である「我が信条(Our Credo)」のもと、性別・年齢・民族性・国籍・障がいの有無・性的指向などに関わらず、あらゆる多様性を尊重するダイバーシティとインクルージョン(D&I)を経営の重要課題として位置付け、推進しています。
世界中に多数のグループ企業を有し、約13万2千名が働くグローバル企業では、どのようにD&Iを浸透させているのでしょうか。人事部の工藤さんにお話を伺いました。
PROFILE 工藤麻依子さん
当事者の思いに触れるきっかけを与えるイベント開催
──J&Jでは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進されていますよね。いつ頃から取り組まれてきたのですか?
工藤さん:
J&Jでは1886年に本社を設立した当初からD&Iに取り組んでいます。当時、14名いた従業員のうち8名が女性だったこともあり、その頃から女性の社会進出を支援する姿勢が見られました。130年以上経った今でもD&IはJ&Jのビジネスの成功に欠かせない戦略の1つになっています。
特に最近では、性別や国籍、障がいの有無など、目に見えるダイバーシティもさることながら、インクルージョンにもより力を入れて取り組んでいます。
──具体的にはどのようなことをしているのですか?
工藤さん:
J&Jの目指すインクルージョンとは、価値観や信念、バックグラウンド、これまでの人生など、みんなそれぞれ違うけれども、誰もがJ&Jに受け入れられていると感じられる、J&Jに“自分の居場所がある”と感じられる環境を作っていくことです。
D&Iの推進活動は、ジャパン プレジデント カウンシル(経営層の代表)、ERG(有志社員のグループ)、HR(人事)の3者が協力し合いながら、全社員が中心となって行なっているのですが、数年前からは「You Belong (あなたが自分らしくいられる場所)」をコンセプトに活動しています。
特に今年は、インクルージョンについてみんなで考えていくことにフォーカスして活動してきました。直近では8月にYou Belongイベントを開催しました。
「ロケーションによるダイバーシティ」、「国籍の違いによるダイバーシティとインクルージョン」、「居場所があると感じることとはどういうことか」など、いろいろなテーマを設定して、全6回にわたって実施したところ、延べ1,600名以上の社員が参加しました。
イベントでは、まず会社が推進するD&Iとは何かを説明したあと、「インクルージョンストーリー」として、各回のテーマに沿って当事者からインクルージョンを感じた瞬間を語ってもらいました。たとえば日本で働く外国人であれば、「日本のこんなところに驚いたけれども、こんなとき自分が受け入れられたと感じた」とか、ほかにも育休を3回取得した後に職場復帰したワーキングマザーや、障がい者、新卒の新入社員で入社以降コロナの影響で一度も出社せずに業務を続けている女性社員など、それぞれの立場で実際に社員自身が経験したことを共有。その後、参加者全員で「私にとってのインクルージョンとは何か」について話し合いました。
イベント後にとったアンケートでは、回答者の99%から「マインドセットに変化があった」「明日からインクルージョンにつながる活動に取り組みたい」など非常にポジティブなフィードバックを得ることができました。特に、「インクルージョンストーリーに感銘を受けた」という人が圧倒的に多かったですね。 このイベントを通じて、いろんなバックグラウンドの人がいることを知ることができ、さらに自分たちがインクルーシブな文化を作っていくために何ができるのかという話ができたのは非常に良かったと思います。やはり文化として定着させるためには、こうしたイベントが必要だと考えています。
──コロナ禍で延べ1,600名の参加はすごいですね。
工藤さん:
そうですね、今までは顔を合わせて開催することを大切にしていたのですが、コロナ禍では集合はできないというのが前提にありました。この環境を逆手にとってオンライン開催とすることで、今まで参加してもらえなかった社員にも参加してもらうことを大きな目標にしました。やはり会社には何千人と社員がいるので、あまり関心を持っていない人もいれば、関心はあってもイベントが開催される日中の時間帯にどうしても本社に来られない人もいたのです。
今は在宅ワークをする人も多いですし、結果としてオンライン開催にしたからこそ、たくさんの人にD&Iに触れてもらうきっかけを提供できたのではと思っています。中には営業の途中に駐車中の営業車の中から参加してくれた社員もいました。実際にアンケートを取った結果、75%以上の人が初めてこのようなイベントに参加したことがわかりました。今後も様々なテーマでイベントを開催していく予定です。
多様化する働き方を支援するサポート制度
──J&Jは様々な支援制度も充実していますよね。
工藤さん:
そうですね、もちろん日本の労働法で定めなければならないものは取り揃えていますが、それさえあればすべてのニーズ、ライフスタイルにマッチするというわけではありません。ですから、会社としては、それに加えてどういったガイドラインや取り組みをしていくことで、多様化する様々な働き方をサポートできるかという観点でいろいろな施策などを検討して実行しています。
たとえば、女性の支援という点では、産休育休を取得後に復職したいと思っている人への「復職サポート制度」があります。やはり職場に戻るときはいろいろ不安も出てきてしまうものなので、お休みの間も限定的に仕事をしてビジネス感覚を維持したり、スキルアップをするためのプログラムを入れたりして、スムーズに復職できるようサポートしています。
逆に休みを取得しやすくするための制度もあります。たとえば、育休中は国から育休手当が出るものの、月収の3分2程度に収入は減ります。そのため、収入が減ることを考えると休みづらいと考える人もいます。そういうハードルを少なくするための取り組みとして、「Global Parental Leave」という制度があります。
これは、出産から2か月間は所得を100%保障するという制度で、男性も使えるという点がJ&Jのユニークなところかなと思います。実際、男性は特別育児休暇(5日間)だけをとる人が多かったのですが、最近は育休を1〜2か月とる人が増えてきています。
また、「チャイルドケア支援金制度」という、1か月以上の育休を取得した社員を対象に、年間30万円までの補助金が最大7年間支給されるという制度もあります。両親が子どもを見られないときのシッター代や、遠方から親に来てもらった時の交通費などに使ってもらうなど、女性だけでなく男性も使える制度で大変好評です。
ほかにも、「同性パートナーシップ制度」という、パートナーシップ証明書を出して同性婚を認めていくなどの取り組みもしています。LGBTQ(セクシャルマイノリティ)の方たちがみんなカミングアウトできるわけではないので、全体像を把握するのは難しいですが、こうした制度を活用する人がいたり、部門の中でカミングアウトして、みんながそれを受け入れていくという事例を耳にする機会が少しずつ増えてきていると感じています。
──制度が整っているのは社員にとってありがたいことですよね。こうした制度を活用しやすい雰囲気はありますか?
工藤さん:
私も1年くらいずつ2回育休を取って復帰したのですが、いろいろ制度が整っていたり、支援があるというのは非常にありがたかったです。同時に会社としてD&Iを推進していることもあり、休みを取得するときも復職するときも、上司やチームがいろいろなことを理解して多様な働き方をサポートしようというマインドセットにあるのが前提になっていると感じました。
もちろん休みに入る人の仕事をどうするかなど、いろいろ考えなければならず大変なこともありますが、それでも社員一人ひとりのライフイベントに合わせて、会社として、チームとして、上司としてどんなサポートができるのか、その都度考えてくれます。
J&Jでは制度や支援プログラムがあるだけではなくて、社内でもきちんと理解されているということが「働きやすい」「働いていける」と感じられる大きな要因なのではないかと思います。
今後も、D&Iを浸透させるべく、いろいろなアプローチで取り組んでいきたいと思います。
…
「自分の居場所がある」と感じながら働くことは、働く人にとっても組織にとっても非常に重要な要素です。様々なサポート制度を作るだけでなく、インクルージョンを考える機会を提供するなど啓蒙活動に力を注ぐJ&Jの取り組みは、今後ますます多様化する世の中において参考になることが多いのではないでしょうか。
取材・文/田川志乃 取材協力/ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社