共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

2018年4月に事業会社15社を本社に統合したJTBは、同年に「TOKYO働き方改革宣言企業」に参画し、テレワーク関連制度の導入や、会議時間のスリム化など、さまざまな働き方改革を進めました。

 

中でも約420パターンのシフトから選べる「変形労働時間制」により、全ての従業員の柔軟な働き方と時差出勤を実現。制度導入までの経緯と、経営統合後の働き方の変化ついて、人事部企画チームの竹村あおみさんに伺いました。 

全支店の風土改革を「Smile委員会」の設置で見える化

竹村あおみさん/2007年入社。営業職を経験した後、人事部企画チームに配属。新制度の企画・検討や、既存の制度の見直し、労務管理を担当。小学2年生のお子さんを持ち、育児と仕事を両立。在宅勤務がスタンダードになったことでフルタイムでの勤務が可能に。

 

——2018年の経営統合以前に抱えていた「社員の働き方」の課題と、現在までの変化について教えてください。

 

竹村さん:

20184月、JTB北海道からJTB九州までの地域会社に加え、JTBコーポレートセールス、JTB国内旅行企画など、計15社をJTB本社に統合しました。

 

以前は、事業会社ごとにダイバーシティ推進への取り組みを行っていましたが、会社ごとに濃淡があり、結婚や出産などのライフイベントをきっかけに退職する女性社員数も少ないとは言えず、残業時間の多さも課題でした。社内アンケート調査では「働きやすさや、ワークライフバランスが実感できていない」という声が一定数以上見られていました。

 

経営統合により、社内体制が大きく変わったのを皮切りに、「全社的に同じトーンで働こう」という意識が高まり、「ワークシフト2020プロジェクト(社内部門横断型3カ年プロジェクト)」を設置し、働き方改革のアクセルを踏むことになりました。同時に東京都が創設した「TOKYO働き方改革宣言企業」に参画し、加速度的に働き方と休み方の見直しと改善を進めていきました。

 

——「TOKYO働き方改革宣言企業」に参画し、取り組みを公にしたことで、社内的にも社外的にも「本気の姿勢」を感じることができますね。これまで15社に分かれていた会社を1つに統合したわけですが、働き方改革について足並みを揃えるのは大変だったのではないでしょうか?

 

竹村さん:

まず、全社的な取り組みとして「Smile委員会」という風土改革のためのプロジェクトを発足させ、全国にある約130の個所()ごとに一人、もしくは二人、「Smile委員長」を任命。現在、全個所で163人のSmile委員長が在籍しています。

 

Smile委員長は、社内イントラに設置されているコミュニティサイトやSharePoint掲示板を使って取り組みを共有するとともに、互いの進捗具合を確認しています。  ※個所全国各地にあるJTBの支店

 

——Smile委員長はどのように決められたのでしょうか?

 

竹村さん:

個所の責任者である個所長に、個所内の風土改革の旗振り役である委員長を任命してもらいました。現行の課題を洗い出し、皆で意見を出し合いながら組織をより良い方向へ導いていくために、個所内で実行力のある委員長を個所長自ら選任してもらうことがベストであると考えたからです。 各個所から報告された好事例は、全社に共有してもらうよう働きかけました。たとえば、「事前申告した残業時間に応じて色別のタスキをつける」というある個所からの事例は、予定時間を超えて残業している者がいれば一目でわかることから、「社員の時間管理意識の向上」につながり、好事例として共有されました。

 

——「Smile委員会」での取り組みは、社員同士のコミュニケーションの活性化とともに、各個所が抱える課題も見えてきますね。社員数が多いほど、改革の意識の浸透が難しいところかと思いますが、現状はいかがでしょうか?

 

竹村さん:

その部分は今なお課題感を持っている部分です。「上司からのメッセージをどう伝えるか」、「ボトムアップの意見の吸い上げを円滑にするためにはどうすべきか」について、検討しているところです。Smile委員会の活動は、人事部ダイバーシティ推進事務局を通して各部門長に共有されていくシステムで、ボトムアップとトップダウン、両方のフックを持っているので、今後の改善に役立てていければと思っています。

「変形労働時間制」の導入で、時差出勤や朝型勤務などの柔軟な働き方が可能に

——2018年以降、新たに導入、または拡充された制度について教えてください。

 

竹村さん:

これまで「育児」や「介護」を理由にした社員に限定されていた「在宅勤務制度」が、誰でも利用できるようになりました。

 

同時に420のシフトパターンから、1か月分の勤務時間を選択できる「変形労働時間制」を導入。始業時間を前倒しして通勤ラッシュを避けたり、早く帰宅できることで子育て世代の社員にとっては、お子さんのお迎え時間などに余裕が生まれました。終業後、自身の習い事や趣味に時間を使う社員も増えているようで、ワークライフバランスの充実にもつながっています。

 

——420パターンあるシフトから選ぶという選択肢の広さからは、社員自身が勤務時間を決定する「フレックスタイム制度」に近い印象も持ちましたが、「変形労働時間制」は日毎のシフトの届け出が必要ということなんですね。

 

竹村さん:

はい。当社には、店頭営業やコールセンターのように、フレックスタイム制に適さない職種もあります。

 

また、420のシフトパターンを運用することで、1日、1週間、1か月の労働時間や働く時間帯を柔軟に管理できるようになり、業務の繁閑に応じた対応が可能になるという利点から、全社的に変形労働時間制を導入することになりました。

 

前月の25日までに翌月1か月分のシフトを確定し、その申請に基づいて、オンライン上の打刻で勤退管理をしています。

 

——在宅勤務が誰でもOKとなったことと、変形労働時間制の導入は、時短を選択していた方にも影響があったのではないでしょうか。

 

竹村さん:

そうですね。移動時間があるために時短勤務を余儀なくされていた社員も多いと思うので、在宅勤務が全社的に活用できるようになったのは嬉しい変化でした。

 

私自身、在宅勤務がスタンダードになったことで、時短勤務ではなくフルタイムで働けるようになり、出社する日は「9:3017:00」のシフトパターンで、子どものお迎え時間に間に合うように終業し、在宅勤務の日は「8:0017:30」で働いています。

 

また、1時間ごとに有給休暇を使える「時間年休」は、子どもの学校行事や自身の通院などの「ちょっとした用事」に活用できる制度で、変形労働時間制と組み合わせることで、さらに柔軟な働き方が可能になったように感じています。

 

時間年休は「中抜け」もOKなので、私は「保育園の面談で、昼間1時間中抜けする」という使い方をしたりしていました。半日休むほどではない用事の時に利用しやすい制度です。

 

——変形労働時間制の運用面での課題はありますか?新しい勤務形態ということで、浸透しにくさはありましたでしょうか?

 

竹村さん:

シフトパターンについては「今日は時〜時勤務で、何時以降は残業扱い」など、部署長が各メンバーの日ごとの勤務時間と残業時間をしっかり把握しなければいけなかったので、導入当初は労務的な管理に困難が見られました。どの個所も3パターン程のシフトからスタートし、少しずつパターンを増やしていくことで、管理側も適応していくことができました。

 

しかし現在、「うちは10パターンがメインです」というところもあれば、「20パターンがスタンダード」というところも。「どれだけのパターンが活用されているのか」は個所によって偏りがあるため、今後の課題として捉えています。420のパターン数の必要性を検討するとともに、さまざまなシフトパターンでの活用のしやすさも発信していきたいです。

手厚い社内制度と社会全体の理解の深まりが、女性社員のキャリアの継続につながる

——ライフイベントを理由に、退職を選ぶ女性社員数は減ってきましたでしょうか?竹村さん自身、子育てと仕事を両立する中で、働き方に変化はありましたか?

 

竹村さん:

現在の女性社員比率は約6割。以前に比べて、育児・出産を理由に退職する社員数は減ってきています。私は育休明け、時短勤務で復帰しました。当時は営業部に所属していたのですが、お客さまも理解を示してくださる方が多く、働くママを応援してくれる風潮が高まっているように実感しました。

 

いっぽうで、保育園に入れず「2歳まで」という育児休職の期間満了により退職される社員も、いまだに一定数いることも事実です。このように一時的に退職を選択する方のために、「キャリアライセンス制度」を用意しており、育児や介護、留学を理由に退職する時に申請して認定されると、「7年間は内定状態」が継続するので、本人のタイミングでの再雇用が可能です。

 

働き方への価値観や家族の支援環境などは人それぞれですので、会社としては、主体的なキャリア選択が叶う環境が整っているかどうかに視点を置いて制度の整備と拡充を進める必要があると思っています。

 

 

 「変形労働時間制度」と「在宅勤務」、「時間年休」などの制度を組み合わせることで、時短勤務だったママさん社員もフルタイムで働くことが可能になったJTB。複数の制度を活用することで、理想的な働き方につながることを示してくれました。

 

取材・文/佐藤有香 撮影/緒方佳子