保育施設への入所申請をしているのに入所できない「待機児童」の数は減少しつつあります。しかし、育休延長や求職活動休止、認可外保育園への通園などの理由で待機児童とカウントされない「隠れ待機児童」は増加傾向に。働く意欲があるにもかかわらず、保育園が決まらないから復帰できない——。これは本人にとっても、雇用する企業側にとっても大きな損失とも言えます。

 

リクルートではこの状況を問題と捉え、従業員の保活を支援する施策「保活のミカタ」をスタート。施策の発起人である人事統括室の酒田さんと、施策を利用した大久保さんにお話を伺いました。

 

人事統括室ダイバーシティ推進部のイベント・支援グループに所属する酒田絵美さん。保活のミカタの起案者として、全国の従業員の保活支援に奔走する日々。プライベートでは、13歳の長女、4歳の長男、3歳の次女の母。

自分と同じように保活で困っているママやパパを助けたい

——酒田さんは「保活のミカタ」の発起人と伺いました。始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

 

酒田さん:

長男の保活ですごく苦労したのがきっかけでした。多くの自治体では、翌年4月の認可保育園の入園申し込みの提出期限は11月末。当時は出産後でなければ申し込めず、遅くとも提出期限までに出産している必要がありました。でも、長男が生まれたのは11月の最終日で、申し込みに間に合わなくて。認可外に預けようにも、生後4か月の子を受け入れ可能な施設も周囲にほとんどなく、申し込みを見送りました。

 

育休制度は2017年の5月末まで使えたので、1歳児クラスの20174月入園を狙うことにしたのですが、0歳児クラスからの持ち上がりがほとんどを占めるため募集数が少なく、この年は同じ自治体内の待機児童は2000名以上。認可外もどこも50人以上待ちで、「これでは保育先を確保できないまま、育休も終わってしまう。大好きな仕事を辞めるしかないのか」と、不安で仕方ありませんでした。

 

人事に相談しても、「復職できないなら退職という選択肢しかない」と回答をもらい、家族で考えた結果育休中に3人目を妊娠、出産して育休を延長しました。きょうだい同時入園で加点されたため、結果的には2018年にふたりそろって希望する園に入園できましたが、その後、長男の入園倍率は32倍だったことを知りました。

 

——3人目を妊娠・出産されなかったらまったく違う状況になっていたかもしれませんね…。ともかく、ご自身の大変な保活体験から新たなサービスが生まれたのですね。

 

酒田さん:

保育園の入園が決まったとき、安堵したと同時に私と同じように困っている社員は絶対にいるはずだと思ったんです。あと、もともと子どもが好きで、育休中に保育士の資格を取得したこともあり、この経験と知見を会社のために活かしたいと考えるようになりました。ご縁があって2018年の4月の復職では人事部に配属され、ダイバーシティ推進部で「保活のミカタ」を立ち上げることになりました。

 

——「保活のミカタ」では具体的にどんな活動をしているのでしょうか?新規施策の立ち上げということで特に苦労したことはありますか?

 

酒田さん:

オリジナルで制作した『保活のコツBOOK』に沿って、社員に個別面談を行っています。保育園入園の「基礎知識」「入園ルール」「家庭の優先度」にもとづき、一人ひとり違う状況に対し、それぞれに合った最適な保活戦略を導き出すことを目指しています。ママだけではなく、パパからの面談依頼も多くいただいています。面談後はメルマガで時期にあわせた保活情報を配信し、困ったときのサポートができるようにしています。

 

 

この『保活のコツBOOK』を作るのが大変でしたね。時間がすごくかかって。入園ルールは自治体ごとにまったく異なるうえに、ルールは1年ごとに更新されます。その情報をどうやってわかりやすい形で情報提供できるかにこだわりました。保活をするのは体調の乱れがちな妊娠中や、生後間もない赤ちゃんのいる出産後の時期です。だからこそ、最小限の負担でやるべきことを理解してもらえることを意識しました。

 

そこで、特に保活が厳しいとされる東京23区と横浜市、川崎市に地域を絞り、各自治体が発行する分厚い「保育園入園のしおり」を読み込むところから始めました。保育園の数、運営の決まり、入園基準となる調整指数

(※1)などを整理し、要点を5分で理解できるようまとめるのに苦労しました。

(※1)各自治体によって独自に設定されたその世帯の保育の必要性を数値化したもの。点数上位の世帯から優先して認可保育園への入園が決定するため、保活における最重要指標となる。

 

>> NEXT 実際に施策を利用した人の声は?