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2000年代から日本国内で注目されてきた、企業のダイバーシティ。リクルートグループでは約60年も前から「個の尊重」に着眼し、各種施策の推進を続けてきました。なかでも、働くママ・パパのライフスタイルを疑似体験できる「“仕事と育児の両立”VR研修」は、革新的な取り組みとして注目を集めています。

 

ダイバーシティを会社に根づかせるためのヒントを探るべく、施策に落としていくまでの経緯や注力した点について、ダイバーシティ推進部の塚本さんにお話を伺いました。

 

株式会社リクルート人事統括室ダイバーシティ推進部部長の塚本尚子さん。1997年リクルートに入社。『とらばーゆ』や『じゃらんnet』の編集、カスタマー対応の部署を経て、2018年よりダイバーシティ推進の部署へ。リクルートが大切にする「個の尊重」という価値観を基本としながら、グループ全体のD&I推進に取り組んでいる。プライベートでは保育園に通う女の子のママ。

 

「個の尊重」が会社のイノベーションに直結

——御社といえば、常に革新的な企業というイメージがあります。実際、働き方改革にもずいぶん前から取り組んできたそうですね。

 

塚本さん:

そうですね。リクルートは1960年に創業しましたが、数年後には当時では珍しく男女同一賃金の待遇で採用活動を行いました。「ダイバーシティ」という言葉はまだ浸透していませんでしたが、従業員一人ひとりの多様性を受け入れようとする動きは創業当時からあったと聞いています。

 

というのも、リクルートグループでは、1960年代から「個人の尊重」を経営原則の中に掲げてきました。現在は「個の尊重」という言葉で表現しています。多様な個性・考え方を活かし、従業員一人ひとりが能力を発揮していくことが、新しい価値の創造につながる、それが会社の継続的な成長につながる、というような考えをあらわしたものです。それを実現させるためにさまざまな制度をつくり、施策を行ってきました。

 

——60年も前から“個の多様性”に注目されていたとは…素晴らしいことですね。具体的にどのような制度や施策を進めてきたのでしょうか?

 

塚本さん:

2006年に、「ダイバーシティ推進」の専任組織を新設しました。以来、性別にかかわらず活躍できる環境を整えることをファーストステップとして、当時は、主に女性を対象に両立・活躍支援を進めていました。

 

2008年に事業所内保育園を設置し、2015年にリモートワークをはじめとする本格的なワークスタイルの変革に着手してきましたが、特に2017年に開始したバーチャル・リアリティ(VR)体験マネジメント研修は挑戦でした。そして2018年、社会問題にもなっている保活(保育園入園活動)を包括的にサポートする「保活のミカタ」をスタートさせました。

 

ダイバーシティを“自分事”に——上司の意識改革にも着手

——今回お伺いする「“仕事と育児の両立”VR研修」や「保活のミカタ」も、DI(ダイバーシティ&インクルージョン)の一環なんですね。DIでは、制度や施策のほかに年40回ものセミナーやイベントを行っているとのことですが、新たな施策をつくるときやセミナーを開催するときに、大事していることを教えてください。

 

塚本さん:

一人ひとりが能力を最大限発揮できる環境を整えるために、立体的に、生活シーンに合わせて提供することにこだわっています。一方的に情報を提供するのではなく、日常的にどのような動きをすればお互いの理解が深まったり、悩みの解決につながったりするのか。そんなことを常々考えていますね。

 

たとえば、セクシャル・マイノリティへの理解

場合、基礎知識はeラーニングで学びます。でも、それだけだと一過性で終わってしまう可能性がありますよね。なので、ガイドラインをイントラネットにアップし、日々振り返れるようにしています。当事者の方に向けては、社外の方に繋がる相談窓口を設けました。

 

保活の場合は、「早く保活を始めてください」と促すだけでなく、面談の際にお渡しする保活の要点をまとめた「保活のコツBOOK」をイントラネットにも掲載し、従業員なら誰でもいつでもダウンロードできるようにしています。また、面談を通して、一人ひとり違う生活状況、希望する復職の時期、復職後の希望する働き方に応じた園選びや、入園確率の上がる具体的な保活戦略を個別に提案。一人ひとりにとっての保活の最適解を得られるようにサポートしています。

 

 

——いくら施策や制度があっても上司の理解を得られないと使いづらい、という声もありますが、そのあたりはいかがでしょうか?

 

塚本さん:

制度などを利用して個人の能力を最大限発揮するうえで、上司の理解は必要不可欠だと考えています。本当の意味での継続的な成長は、個と個が有機的につながることで産まれるものです。有機的につながるためには、上司がダイバーシティを自分事として捉え、部下への理解を深めることが大事だと思うんです。

 

そこでマネジメント層向けの意識改革を促す研修を進めてきました。その一つとして生まれたのが「“仕事と育児の両立”VR研修」です。まだ育児を体験したことがない管理職に理解してもらう手段として、仕事と育児の両立の風景を疑似体験してもらうものです。

 

ワーママ・パパのリアルな1日をVRで体感して得るものとは?

——マネジメント層に特化したダイバーシティの研修を実施されているとは、大変興味深いです。「仕事と育児の両立」をテーマとしたVR研修をつくった背景について教えてください。

 

塚本さん:

きっかけとなったのは、2016年にリクルートマーケティングパートナーズが行った「育ボスブートキャンプ」というプログラムです。子育て経験のない管理職の社員がママ・パパとして働く社員の家庭を実際に訪れて、保育園へのお迎えから食事などの時間を一緒に過ごします。

 

参加者からは、体感することの大事さを痛感できたなど、とても好評だったのですが、家庭に訪問して体験するとなると、どうしても参加人数が限られてしまいます。そこで、VRコンテンツを開発し、リアルに加えて、場所や時間に限らず希望する管理職が体験できるようにしました。

 

——研修をつくるにあたり、特にこだわったことは何でしょうか?

 

塚本さん:

プログラム自体は、VR視聴と研修をセットにしています。

 

VRの動画に関しては、とにかくリアリティを持たせることにこだわりました。リアリティがなければ、12分間の動画で仕事と子育ての両立の大変さを伝えるのは難しいと思ったんです。具体的には、社員との面談の際のナマの声をヒントに、リアルな生活シーンを再現しながら、上司に理解して欲しい項目を入れ込む構成にしました。

 

体験できるVR映像の一例(企画・監修:リクルート、制作:グリー)。

 

たとえば、17時からの会議は保育園の送り迎えをするワーママ・パパからすると、参加自体が難しい場合があること。帰宅後は買い物から夕食の準備、食事、お風呂、寝かしつけまでがとにかく慌ただしい…といったことです。

 

おかげさまで、「すごくリアルでよかった。2時間講演で話を聞くよりも、12分の育児VRで疑似体験した方が、どんな大変なことがあるのかが理解でき、より気持ちに寄り添えるようになった」「今後のジョブ・アサインメントや、コミュニケーションに役立ちそう」という声が多く、手応えを感じています。

 

研修内容に関しては、体験するだけではなく、気づきや変化を組織の進化に繋げられるように工夫しました。感じたことを発表したり、働くママ・パパに対して明日からどのようなコミュニケーションやマネジメントを行うかを決めてもらったり。マネージャーとしてどう行動すべきかまでを具現化するようにしています。

 

働くママ・パパには「生産性を意識しながら仕事をする」という強みがあると思います。常に時間を意識し、短い時間の中でいかに効率よくアウトプットするかを考えていますよね。仕事と育児の両立は大変だからと軽い仕事ばかりを振り分けるのではなく、働くママとパパの強みを活かして、どうすれば個の尊重を実現できるのか——そういったことを考えるきっかけになればと思っています。

 

 

ワーママ・パパが自分らしく活躍するのに必要なのは、上司の理解。そしてその理解を得るために、VRはとても有効な手段の一つであるということが、取材を通してよくわかりました。

 

次回は、社会問題として取り上げられる保育園入園活動への支援をおこなう、リクルート独自の取り組み「保活のミカタ」についてご紹介します。

 

 

取材・文/小松﨑裕夏 撮影/河内 彩