共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。
2015年には健康経営銘柄に、2017年より3年連続で「健康経営優良法人ホワイト500」に選出されているロート製薬株式会社では、積極的に健康経営に取り組んでいます。
社員の健康を大事に考える会社の思いとは。そして、具体的な取り組みについて引き続き人事総務部健康経営推進グループの西脇さんと、広報・CSV推進部の小川さんに伺いました。
PROFILE 西脇純子さん
PROFILE 小川未紗さん
ロート製薬が「健康経営に」力を入れる訳
──ロート製薬では「健康経営」に注力していると聞きました。どのようなお考えで健康経営に力を入れるようになったのでしょうか。
西脇さん:
弊社は「NEVER SAY NEVER」のスローガンの下、世の中を健康にする企業でありたいと考えています。今年で創業121年目を迎えたのですが、創業当時の書物にも「世の中を健康にするためには社員自身が健康でなければいけない」とありました。つまり、健康経営はもともとロート製薬の中にDNAとして流れているものなのです。
弊社で考える健康とは、ただ単に病気でないということだけではありません。心身の健康を基盤として、目標や夢に向かって挑戦しようとする情熱を持って仕事に取り組み、働き甲斐・生きがいを感じながら日々成長しながら人生を送ることができてこそ、「真の健康」であると考えています。
健康な社員、つまり“健康人財”のポジティブなエネルギーが家族や周りの人に伝わり、やがて世の中に波及していくことで、社会を健康にしていけると考えているのです。
しかし、健康は会社から与えられるものではなく、自ら掴み取っていくものであると考えていますので、社員には自立した健康人であってほしいと思っています。そのために会社ではそのきっかけを与えられるような、様々な施策を行っています。
──確かに、健康を維持するためには本人の意思や努力は欠かせませんよね。会社として健康経営に取り組む上での目標はありますか?
西脇さん:
2016年にARKプロジェクトの「健康について考える」プロジェクトが発展してできた部門が、現在私が所属する健康経営推進グループなのですが、その発足時に掲げたのが、2020年をターゲットに健康診断の「有所見率」、つまり異常の所見があった人の割合を減らす目標値や、「生活習慣」「ワークライフバランス」といったカテゴリーでの目標値です。
「有所見率」でターゲットにしたのは、「男女の肥満」「女性の低体重」「男性の血糖値」「男性の高血圧」「女性の貧血」という項目です。全国平均よりも高い目標設定にしており達成は容易ではないのですが、達成できるようにこれからも取り組んでいきたいと思っています。
やはり健康に関する気づきの場面を増やすことが大事なので、弊社では健康診断に注力しています。生活習慣病検診は35歳以上を対象とするのが一般的だと思うのですが、人間ドッグとほぼ同じ内容を30歳から受けられます。
2004年からは甲状腺ホルモン検査(男性も受診可)に会社補助を入れています。2016年からは婦人科検診(エコー&マンモ)も女性社員は全員無料で受けられるようになりました。2018年からは隠れ貧血をみつけるための血清フェリチン検査も無料です(男女可)。
感染症対策として、インフルエンザの予防接種は会社で打てますし、子宮頸がん検査や風疹麻疹の抗体検査・ワクチン接種も無償で受けられます。
──婦人科検診や予防接種などの費用を会社が負担してくれるのは嬉しいですね。健康目標でターゲットにしている項目はいずれも日々の生活習慣が大切だと思いますが、わかっていてもなかなか変えられないのが生活習慣でもあります。社員の自主性だけで改善するのは難しいのではと思いますが、どのように取り組まれているのでしょうか。
西脇さん:
例えば1970年代から続いている朝の体操など、取り組みは様々ありますが、最近の取り組みとしては、2016年に全社員に「活動量計」を配布し、1日8000歩と20分の早歩きを実践目標として掲げています。
健康のために歩きましょうと働きかけたことで、「最近ちょっとお腹が出てきたから、オフィスのある29階からエレベーターを使わずに階段で下まで降りる」とか、「仕事が終わってから会社の周りを歩いてから帰る」という社員も出てきて、周りの社員も一緒に歩くようになるなど、いい影響が見られます。
また、年2回、活動量計を使った「トコトコ歩こうチャレンジキャンペーン」を実施して、積極的に社員が歩くよう促しています。これは日々の歩数と早歩き時間に応じて1日当たりポイントが付与され、10〜20名くらいのチームでの総獲得ポイントを競い、優勝チームには景品をプレゼントするというものなのですが、今年はコロナで自粛期間中の4・5月にあえてこのイベントをぶつけてみました。白色の活動量計は全社員持っているのですが、今回に限り、1日1万歩と早歩き25分、2カ月間毎日達成した人には、黒色の活動量計をあげることにしたんです。すると200名を超える人が達成しました。在宅ワークをしていたら1日2,000歩も歩かない日もあるので、こういうイベントの大切さを痛感しました。
──1日1万歩はすごいですね。仲間がいると継続しやすいですよね。景品がもらえるというのも、モチベーションアップにつながりそうですね。
西脇さん:
そうですね。ほかにも、弊社オリジナルの健康社内通貨「A R U C O(アルコ)」というものがあります。これは、社員が健康な取り組みをすればするほど貯まるコインで、貯まったら社員自身で使えるのはもちろん、家族のためにも使えるようになっています。
主な貯め方は5種類あります。 ①1日8,000歩&早歩き20分を達成できたら、1日10コイン ②1日30分以上の運動を週2回実施すると、週に50コイン ③体力測定に参加したら、500コイン ④“健全年齢”が実年齢より若ければ、500コイン ⑤タバコを吸わない社員にノンスモーキング手当として月500コイン、喫煙者が卒煙に成功したら10,000コイン(1回限り)
貯まったコインは、例えば弊社の通販や大阪にある自社レストラン、社内外の研修、健康診断のオプショナルなどで使えます。あとは、特別休暇が1日もらえたり、社員間でありがとうの気持ちを伝える「サンキューメッセージ」として39コインを贈るという使い方もできます。
──健康も手に入れられて、いろいろ使える社内通貨までゲットできるなんて、すばらしいですね。ちなみに、先ほど④で出てきた「健全年齢」というのはなんですか?
西脇さん:
弊社では全社員に対して健康診断だけでなく、2002年から毎年、体力測定も実施しています。2019年からはアシックスさんに協力いただいて総合健康指数である「健全年齢」も出しています。これは歩行能力・体力・認知機能を総合した健康度で、何歳に相当するかを示すものなんです。健全年齢が実年齢よりも若くなることを目標に取り組んでいます。
あとは貧血チェックや血管年齢、肌年齢など色々な測定会を実施したり、その時々に応じて腸内フローラの検査や睡眠改善なども行っています。
貧血対策でゼリーを開発!?
──ロート製薬は女性比率が6割と多いですよね。貧血対策にも力を入れていると聞きましたが、どのようなことをされているんですか?
西脇さん:
貧血測定会を実施したり、貧血に精通しているドクターによる不定愁訴改善セミナーなどを行ったりしています。不定愁訴は、「原因ははっきりしないけどなんとなく体調がすぐれない」という症状のことなのですが、弊社の女性社員のうち、およそ5人に3人が不定愁訴を訴えていたのです。そこで要因を探る中、隠れ貧血の可能性を疑い、1か月間の不定愁訴改善プロジェクトを行いました。
貧血の場合は鉄分を補う必要があるため、まずは健康経営推進グループが子会社と一緒に、1個で1日に必要な鉄分を補えるというゼリーを開発しました。そして、1か月間、毎日1日1個、ゼリーを食べてもらうことにしたのです。また生活習慣の見直しも大切であるということで、朝起きた時に陽の光を浴びて体内時計をリセットするとか、夜ちゃんとお風呂に入る、朝食を食べるなど、ドクター作成のチェック項目を達成できているか、各自日記をつけてもらいました。こうした取り組みの結果、数字的に改善が見られました。
小川さん:
目立った自覚症状がないと生活習慣を自分1人で改善していくのは難しいと思いますが、貧血にしても肥満にしても、該当者もそうでない人もみんなで応援して健康になっていくという意識を持ったり、みんなで一緒にチェックをつけたりして楽しく取り組む。そういう環境を作っていくのがこの会社の面白いところかと思っています。
ほかにも女性向けセミナーで言えば、更年期・プレ更年期セミナーや、妊娠を望む人向けのセミナーなどもあって、健康リテラシーを上げるための取り組みもしています。
西脇さん:
これからもロート製薬で働けば健康になれるような取り組みをしていきたいと思っています。
… 仕事をしていくためにも、生活を楽しむ上でも基本となるのが健康な心身。わかっていてもつい仕事やプライベートで忙しいと、後回しになりがちです。
ロート製薬のように、会社が積極的に健康経営に取り組んでくれることで、社員1人ひとりの健康に対する意識が高まり、安心して働き続けることができると感じました。
取材・文/田川志乃 取材協力/ロート製薬株式会社